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心理学は昔から心について研究してきたわけですが、実は肝心の感情(情動)についてはまだよくわかっていないのです。えっ、感情こそ心理学が得意とするところではないのですか、と①
不思議に思われるかもしれません。しかし、現代の心理学が得意としているのは、どちらかというと、私たちが目や耳で周囲の世界をどのようにとらえるかという感覚や知覚の働きであり、どのようにものを考えるかといった認知と呼ばれる働きについてです。そうした働きと感情を一体化した心のプロセスが、私たちの②
全体的な「生」の体験なのかもしれません。
最近では脳科学やコンピュータの専門家と協力しながら、世界中の精鋭たちが心のメカニズムの研究に取り組んでいます。その成果がロボット工学などに応用されているわけです。人間と同じように見たり、聴いたり、歩いたり、話したりする精巧なロボットたちが作られています。しかし、まだ感情機能をもつに至っていないのはご存知のとおりです。ロボットもうれしそうな表情などをしてみせることはできます。犬型のペット・ロボットならしっぽを振る仕草もします。しかし、それらは表面的な動作を真似しているだけで、感情の働きがそうさせているわけではありません。複雑な心の働きの中でも特に感情機能を解明するのは難しく、それをうまく再現できないからです。
感情は私たちの体験を豊かに裏打ちして
(注1)、なにかを選んだり、しようとしたりする行動を駆り立てる
(注2)動因にもなります。例えば、好き嫌いを理屈(論理)で説明することは難しいはずですが、実際の行動は簡単にやれます。ボーイフレンドやガールフレンドを論理や計算だけで選ぶ人はいないはずです。まあ、計算づくで
(注3)結婚相手を決めようとする人もいるでしょうが、その裏には別の気持ちが動いていそうです。感情は私たちの思考や行動の土台になっていると考えることができそうです。そのため、気持ちの落ち込みがひどいときには、普段何気なくやれていたことができなくなることがあるのです。
(佐藤静『こころサポート』による)
(注1)裏打ちして:土台として支えて
(注2)駆り立てる:何かをせずにはいられないような気持ちにさせる
(注3)計算づくで:自分の損にならないようにいろいろ考えて