そもそも私は、組織内の人間の目や無理やり一致させる必要はないと思っている。要は、それぞれの目標を達成することが、結果として組織としての目標達成につながればいいのだ。そのために大切なのは、組織の目標と個人の目的に接点を持たせ、双方が最大限の利益を得られるような柔軟性を持った仕組みをつくることである。
 ラグビーでいえば、チームの目標はもちろん「勝つこと」である。しかし、チームを構成する選手には、それとは別に、それぞれの目的があるかもしれない。「自分のスキルを向上させたい」「日本代表に入るため」「プロ契約をしてもらうため」「ただ、好きだから」というように.....
 こうした個人の目的を無視し、ただ「勝つ」というチームの目標だけのためにプレーを強要してしまっては、チームから活力が失われてしまうだろう。 (中略)
 たとえば、職場を選ぶ際に「やりたいことをできるかどうか」「自分の資質や可能性を活かせるかどうか」を第一義に(注1)考えるのは当然であるが、最近の若い人の中には「仕事がおもしろくないのなら、嫌な仕事をするくらいなら、さっさと別の企業に転職したほうがいい」と考える人間が増えているという。自分に関係のあること以外にはまったく興味を示さず、会社全体としての目標達成よりも個人の目的や利益を優先させる人間も少なくな いようだ。
 ①こうした傾向について「最近の若い奴は我慢が足りない」とか「自己中心的だ」と結論 づけてしまうのは簡単だ。
 だが、私はむしろこう考える会社に対する「価値観」やそこに所属するための「目的」が多様化しているのだと。つまり、かつてのように組織の中で目標が一元化されえなくなったのが「今」という時代なのである。これはよい悪いとか、正しいか正しくないか という以前に、現実なのだ。
 であるならば、そうした状況を②嘆いてもしかたがない。むしろ組織にとって重要なのは、彼らをいかに活かしていくかということだろう。「そんな考え方は通用しない」とか「おれの言うことが正しい」と、指導者が(注2)価値観を押しつけたりしていては、若い人たちはついてこない。離れていくだけである。結果として組織の力は低下してしまう。
 それならば、まずはそれぞれの目的を「許容」してはどうか。そのうえで、「共有」すべきはチームの目標であると全員の意志を統一させ、各自の役割を責任を持って果たさせるのである。そうすれば、個人のモチベーション(注3)を下げることなく、チームとしての目標達成につながっていくはずである。 それは、これからの組織運営に欠かせないことだと思う。
(注1) 第一義に:最も重要なこととして
(注2)旧来の:昔からの、
(注3) モチベーション:意欲

1。 (58) ラグビーの例で筆者が述べていることは何か。

2。 (59) ①こうした傾向とはどのようなことか。

3。 (60) ②嘆いてもしかたがないと筆者が考えるのはなぜか。

4。 (61) 作者によると、組織運営のために必要なことは何か。