長細い箱が届いた。
そう云えば、ものすごく若くて、ものすごく浅はかだった三十年ばかり前のわたしは、細長い箱に入ったバラの花(棘ははずしてある)の贈りもの、というのに憧れていたなあ。どんなひとから贈られること想像していたのか。ともかく、箱入りバラを受けとるにふさわしい女性になり たいと【41】
結局、箱入りのバラを贈られることはなかった。そうだ。それを受けとるのにふさわしい女性にはなれなかった。だが、それはそれでよしとしよう。
長細い箱が届いた。
さて、この目の前の長細い箱のなかみ【42】、開ける前からわかっている。長ねぎである。夫の実家(埼玉県熊谷市)の畑からやってきた長ねぎ。実家のあるあたりは、深谷ねぎや下仁田ねぎで有名な地もほど近いのを見ても、ねぎとは相性のいい土壌なのだろうか。どの季 節のねぎも、おいしい。
【43】、私の大雑把な「おいしい」は丹精してねぎを育てる義父(ねぎはおもにちち担当)を喜ばせないだろう。なぜと云って、ちちにすれば、育てたねぎにはその都度、「上出来」、「普通出来」、「甘みもうちょっと」、「おいしいが細い」など、その評価に細かいランク付けがあり、ときには「いまひとつだったんよぉ」と云いながら、またあるときには「これは、よくできた」と顔をほころばせながら、手渡してくれる。だから、どのねぎに向けても、等し く「おいしい」と云うのなんかは......。
このあいだもらってきたばかりなのに、また【44】送ってくれたところを見ると、よほど の自信作なのだろう。
箱入りの長ねぎの花束である。

1。 (41)

2。 (42)

3。 (43)

4。 (44)