練習35 私が子どもの頃、父に映画を見に連れていってもらったときのことです。見終わって父に「どうだった?」と聞かれたのですが、ことばが思い浮かびません。ためらった未、「べつに」と答え、父からひどく怒られました。
 そのときは、「こんなことでなぜ?」と思ったのですが、せっかくの休日にわざわぎ映画に連れて行って、子どもの喜んでいる声を聞きたかった父には、やるせなかったのでしょう。映画のよしあしよりも、発せられた問いに正面から向き合って答えなかった私の声にあらわれた態度に、許しがたいものを感じたのでしょう。私の声の出し方と、その声から伝わったものが、父を不快にさせたのです。
 でも、もし怒られなかったら、私はそのことに気づかなかったでしょう。このとき、ほかの人なら、きっと何も言わずに、ごうまんで、ぶしつけで、無気力で、いいかげんな人間だと私を判断したかもしれません。そして、黙って遠ざかっていったでしうょ。

(福島英『声トレのーニング』岩波書店)

1。 筆者が父に怒られたのはなぜか。