練習20 「食べるために働く」という言葉があります。人が生存していくには、やはりお金がかかるのであり、お金を得るためには、やはり働かなくてはなりません。いまはさらに「働き申斐」や「夢の実現」などが働くことの大きなファクター(注1)になっていますから、仕事があって、それが自分のやりたいことと一致していれば、言うことなはいわけです。
 でも、現実にはなかなかそうもいかなくて、目の前あるにのは希望とはまったく違うものだけれども、転職するのもたいへんだから、いやいや会社に通っているという人も多いでしょう。子供がいる人などはなおさら自分勝手(注2)もできず、毎日が我慢の連続かもしれません。ときには「お金さえあったら好きなことができるのに」「誰かオレを養ってくれないかな」という気持ちになることもあるのではないでしょうか。
 ときどき「もし室くじで三億円が当たったら、仕事をやめて遊んで暮らす」という言葉を聞くことがあります。たしかに、お金さきえあれば働かなくていいような気がします。しかし一一と、そこで私は考えるのです。もしお金があったら、人は本当に働くのをやめるでしょうか。案外、そうでもないのではないでしょうか。

(姜尚中『悩む力』集英社)


(注1)ファクター:要素
(注2)自分勝手:他人ことのは考えず、自分の思いどおりに行動すること。

1。 この文章で筆者が最も言いたいことは何か。