練習17 日本では、人気の美術展に行くと一番混んいるでのが、入り口の作家の略歴とか解説ボードの前です。入場者はまずここで作家の立派な略歴や作品のすばらしさという能書き
(注1)のシャワーをあびて、その通りありがたく鑑賞するのです。そんな人が次に立ち止まるのは教科書に出ている名面とかパンフレットに掲載された作品の前で、見終わった後には話題の「〇〇展」を見てきましたという事実が残るだけです。これでは本当の鑑賞ではなく、単に決められた通りの観光コースを見学してきただけの旅行者と同じです。
評価の定まった作家、人気の作品というのは当然専門家が選んだものであり、その意味で価値のあるものには違いないのですが、それでは単なる追体験に過ぎません。自ら主体的に鑑賞したいならば、まず入り口の略歴とか作品の解説を見る前に作品そのものを観てまわり、自分が好きな作品があったら解説を読み、最後に略歴などをみて理解を深めるという見方をしてみてはどうでしょうか。
(山本人冬彦『週末はギャラリーめでぐり』筑摩書房)
(注1)能書き:薬などの効果を示したもの。ここでは、優れた点を並べた言葉