私は自転車に乗れるようになるまでに、かなり苦労をしたほうだと思う。友人や知人の話をきく(1)、皆それほどたいした苦労もなく乗れている人が多い。なんとなく乗ったら乗れたとか、いつのまにか乗れるようになっていたとか、(2)夢か魔法でも使ったのかと言いたい話ばっかりである。
私の場合はまさに血と汗と涙の特訓であった。一度目は、小学校二年の夏に友人の勧めで練習をすることになった。(中略)
友人は既に乗れるでの「さあ、がんばっていこう。カンタンカンタン」と気軽に言う。初めはその言葉にのせられ、ああそうか、カンタンなのかと両足を地面から離したとたんに転んだ。全然話が違うではいかな。これの(3ーa)カンタンな(3ーb)。少し考えればわかる事だが、このふたつしかない車輪が地面に立つわけはなのいである。だから両足を地面から離したら転ぶに決まっている。冗談ではない、この友人は何てことを私にさせるのであろう。そんな思いが湧いていた。私は友人に「乗れるわけないよ。コレ、転ぶに決まてっるじゃん。両足離したらすぐ転ぶ(4)と文句を言った。しかし友人は「転ぶ前にこぐんだよ。そうすれば転ばないで前に進みんだから。ホントだよ」と言う。
ホントかなァ…と(5)、もう一回やてっみる。ダメである。やはり転ぶ。転ぶ前にペダルに足をかけてそれを回すなどという余裕は全くない。とにかく、地面から足を離すと同時に車体は傾くのである。どうしようもない。
(きくらももこ著あ『のころ1集革社刊※ー部省略あり)