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謝罪そのものはそれほど難しいものではない。「ごめんなさい」と、うつむき加減で、神妙な顔で言えばいい。それなのになぜか「謝罪」が話題にみることが多くなった。企業や政治家の不祥事が多発し、謝罪でミスを犯すと命取りになる例が増えいてるからだろう。ワシントンと桜の木という有名なエピソードがある。父親の大切にしていた桜の木を子どもだったワシントンが切ってしまった。怒る父親に対し、わしたがやりましたとワシントンは正直に告白した。お前の正直さが千本の桜より価値がある、と父親はワシントンをとがめずに逆にほめた。
このエピソードは真実ではないという説もあるようだが、①
謝罪について考える好例だと思う。重要なのは、ワシントンは謝罪はしていないということだ。ワシントンは「わたしが木を切りました」と、正直に告白しただけで、ごめんなさいと謝ったわけではない。人身事故ようのに、相手を傷つけた場合、また雑踏事故のように相手の足を踏んだりした場合など、ことの経緯がはきりっしている場合が例外で、すぐにまず謝るべきだが、ビジネスの上でのトラブルが発生した場合、または何らかの疑いが生じたときは、この経緯と自分がどう関与したかを明らかにするのが先決だ。②
単に謝ればいいわけではない。
そもそも何が起こったのか、自分はどう関与したのか、責任は誰にあるのか、損害を把握しているのか、どのような対応をたしのか、事態は解決に向かっているての、いつ解決するのか、再発防止のためにどのような対策を取るのか、損害賠償について具体的にどう考えているのか、今回のトラブルに対し誰がどういう責任をとるのか、そういったことをできるだけ速やかに明らかにすることが、( ③ )。
(村上龍『無趣味のすすめ』による)