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これまで、私は動物の親と人間の親について書いて来た。動物的には、親は役割だが、人間社会では関係でもあるといった。
だが、この役割と関係のちがいを、ほとんどの人たちは、はっきりと区別することなしに生活している。( 1 )、それは重なりあっているところもある。親の役割も、社会のなかで行なわれているのだから、そうならざるをえない。
だが親子を考える( 2 )、この二つのそれぞれを切り離して、とりだしてみる必要がある。
動物でも、社会を作っているものがあるから、社会のなかで、固体と固体のあいだの関係はある。だが関係は、役割( 3 )、はっきり区別されている。たとえば、動物のなかでも一夫一婦制をまもるものもある。この関係は一生続くことも、稀ではない。しかし、そうした動物でも、親子の関係は、子が育ち一人前になり、親の役割が終わると同時に( 4 )親子のつながりは、一つの季節以上に続かないものが大部分だ。同じ群
(注1)のなかで生活していても、子供がすっかり一人前になってしまったあとは、もう親子のつながりはひとかけらも
(注2)意識されていない。人間は、自分たちの親子関係意識( 5 )動物の親子を見るから、役割を見おとしてしまう。
(なだいなだ『親子って何だろう』筑摩書房)
(注1)群:動物の集団
(注2)ひとかけらも:少しも