(5)
外国の町についても同様である。ぼくはいろいろな町へ行ったが、滞在がいちばん長かったのは一といってもせいぜい一年足らずであるが一パリである。( 1 )、短期間滞在したほかの町よりも、パリについては知らないのだ。何もあわてること( 2 )ない、そのうちに行けるだろう、などと思ってるうちに、ついに行かずじまいになってしまった場所がたくさんあるのだ。
これはおそらく、( 3 )新聞の常駐特派員
(注1)として長くその町に住んでいる支局長などと話をしてみると、たいていそうである。パリに五年も住んでいて、エッフェル塔
(注2)に一度ものぼったことがない、という友人もいた。東京に五十年も( 4 )、泉岳寺
(注3)にも行ったことがないのと同列である。まあ、そんなもんではなかろうか。つまり、つい
安心してしまうわけである。だから、( 5 )、ということは、けっして行けない、ということなのだ。
(森本哲郎『「私」のいる文章』新潮社)
(注1)常駐特派員:いつも外国にいてニュースなどを取材する人
(注2)エッフェル塔:パリの有名な建築物
(注3)泉岳寺:東京にある寺