大人に便利なように作られた製品のため、子どもが傷を負い、ときには命を脅かされる。だというのに、大人社会はあまりに無策ではないか。
 ライター遊びが原因とみられる火事で、幼い犠牲者が続く。車のパワーウインドーに指や首を挟まれ、大事に至った例も各地で報告されている。高熱の器具に手をのばす棚の薬を誤って飲む・・・・。同じような事故が毎年繰り返されている。
 ライター( 41 )、経済産業省けいざいさんぎょうしょう作業部会さぎょうぶかいが、子どものでは簡単に点火できない構造にするよう、安全基準を設ける議論を進めている。消費者庁しょうひしゃちょうは、家庭で使わなくなったライターを回収する検討を始めた。都内で過去10年、12歳以下によるライター遊びで起きた火災は511件にも上る。動きは遅すぎるくらいだ。
 米国は1994年、ライターの構造規制に踏み切った。4年後に死傷者が半減したとのデータもある。
 車のパワーウインドーでは、何かが挟まれば自動的に止まる装置が開発されているだが、全座席に装備された車種は多くない。義務づけを検討してはどうか。
 子どもから目を( 42‐a )、危ない物は( 42‐b )。周囲の大人が注意しなければならないのは、言うまでもない。落ち度が大きければ、保護者の責任を問う必要はあるだろう。
 でもそれだけで、子どもの事故は防げるのか。家庭や地域の見守る力が落ちる一方生活空間に潜む危険は減っていない。子どもは昔も今も日々成長し、予測外の行動をとるものだ。
 様々な事故の情報を集め、原因を分析し、リスクの重大性を評価する。製品改良を促し、必要なら規制措置をとり、子どもを取り巻く環境から危険を減らす。そんな機動的な仕組みが求められている( 43 )。
 横浜市よこはましでこどもクリニックを開業する山中龍宏やまなかたつひろさんは、けがややけどで運ばれてくる子どもを診る( 44 )、同じ思いを募らせてきた。
 5年前、工学研究者らと協力し「事故サーベイランスプロジェクト」を立ち上げた。自身や国立成育医療研究センター(東京)が扱った症例を基に、予防策を研究。メーカーへの指摘は、高温の蒸気を出さない炊飯器の開発に結びついた。公園の遊具で転落事故が起きた自治体では、地面にゴムマットを敷いたり、階段に手すりをつけたりといった対策を実現させている。
 1歳以上の子どもの死亡原因で最も多いのは「不慮の事故」だ。その予防は、消費者庁などを核に、政府を挙げて取り組むべき課題だろう。
 防げるはずの事故を前に無為で( 45 )、子どもの権利を侵すこと。そう山中さんは訴える。私たち大人すべてが肝に銘じたい。

(「朝日新聞」2010年4月20日付)

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