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現代人は大衆の中の一人ではなく、名前がある個人として認められると、自分の存在が尊重されたと自尊心
(注)が満たされ、私は大切にされていると、喜びを感じます。
「お客様を名前で呼びましょう」と教育している店が多いです。クレジットカードやメンバーカードの使用で名前がわかるので、その時点からは「お客様」でなく、「〇〇様」と個人名で呼ぼうというものです。(中略)
筆者はレジでクレジット払いをしたときに、「小林様、いつもお買い上げありがとうございます」と言われると、その店の上得意
(注2)になったようで、ちょっと優越感
(注3)を感じます。接客をしてくれた、私は名前を知らない応対者から自分の名前を呼ばれると、急に親近感がわき、相手に優しい気持ちを持つようになります。
しかし名前で呼びかけられて困ることもあります。夜や土日を中心に買物に行くOLと異なり、私は近所のショッピングセンターへ曜日、時間に関係なく出かけます。平日の昼ごろ顔なじみ
(注4)の従業員が私を見つけると「あら〜小林さん、こんな時間にどうしたの?休み?」と声をかけてきます。エスカレー夕脇で私の仕事の事情を話すつもりもなく、あたふたします
(注5)。せめて「小林さん、こんにちは」でやめて欲しいなぁと気弱に願い、平日の昼間はドキドキしながら店に行っています。
(小林作都子『その話し方がクレームを生む』日本経済新聞出版社による)
(注1)自尊心:自分を大切にする気持ち
(注2)上得意:店にとって大事な客
(注3)優越感:自分がほかの者より優れていると感じること
(注4)顔なじみ:よく会うので顔を知っている人
(注5)あたふた:落ち着きをなくし、あわてる様子