A
 著者は、この小説でひとつの実験を行った。それは、文体を変えるということだ。今までは、日常生活から小説の世界へすっと入っていけるような、親しみやすい文体を使っていた。しかし、この小説では、古くてかたい表現を多く用い、舞台が現代だということを忘れさせるような雰囲気を作り上げている。この変化に読者は驚くかもしれないが、著者の物語を組み立てる手腕(注1)は変わらず、読者をあきさせない。
 この物語は、続きを予告しているかのような文章が多く、この一冊で終わるとは思えない。次回作への期待がふくらむが、一方で、続きが出なくてもかまわないとも思う。読者は、それぞれが感じた物語の終わりを大切にすることもできるのだ。

B
 この小説ではさまざまなテーマが扱われており、手短に紹介するのは難しい。主人公は、一般的な企業に勤める普通の青年である。その青年が、社会に衝撃を与える金融取引事件に巻き込まれる(注2)。さらに、仕事以外でも問題にぶつかり、青年と両親との対立、親友の死、恋人の病気などに直面したときの心の動きが描かれていく。
著者は、今まで取り組んできたことのすべてをこの小説に詰め込んだ。人間の心は社会的圧力に支配されるものではないとう力強いメツセージを発している。気になるのは、一部の物語が明らかに終わっていないことだ。出版社は公式には発表していないが、私はこの小説の続編がすでに書かれていると信じている。この小説をきちんと評価するのは、最後の物語が出版されてからのこととしたい。
(注1)手腕:物事を行う能力
(注2)事件に巻き込まれる:本人の意思に関係なく、事件に関わらせられる

1。 (1)AとBについて、正しいのはどれか。

2。 (2) AもBも、この小説の続編が出ると言っているのはなぜか。