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私たちは、呼吸によって空気中から酸素をとりいれています。酸素がなかったら窒息して
(注1)死んでしまいます。酸素は私たちが生きていくために欠かせない大切なものです。ところがこの酸素は、じつは私たちのからだに害を与える毒でもあ
ることは、あまり知られていません。
酸素はちょっとしたきっかけで「活性酸素」というものに変身します。活性ということばの響きからは、私たちのからだのために活発にはたらいてくれるようなイメージがあるのですが、その実体はひじょうに攻撃的で毒性の強い曲者
(注2)なのです。そして、この活性酸素こそが、さまざまな老化現象をおこす真犯人ではないかと考えられています。(中略)
生きていくために酸素が必要なのですが、酸素を利用するために老化するのです。私たちは呼吸をするから歳をとるというわけです。呼吸こそが老化と死を引きおこす原因の一つであり、生きているかぎり老化は避けられません。たいへん皮肉なことですね。
酸素の利用量が少ないと、老化もおさえられるようです。たとえば、酸素の希薄な
(注3)高地に住む人ほど長寿の人が多いとか、腹八分目でカロリー制限することで老化の進行が遅くなるというデ一夕もあります。
(伊藤明夫『細胞のはたらきがわかる本』岩波書店による)
(注1)窒息して:呼吸ができなくなって
(注2)曲者:面倒なもの
(注3)希薄な:薄い、少ない