(3)
40%という低い食料自給率の日本で、まだ食べられるのに賞味期限
(注1)切れが近付いたという理由で返品された食品を大量に廃棄している。消費者が賞味期限の表示の意味を理解していない、あるいは食品の鮮度にこだわりすぎる
(注2)ことが原因で食品が売れ残ると消費者庁は考え、日付を過ぎても食べられるとPRすることや消費者の意識を改革する啓発
(注3)活動を行うという。
しかし、これだけでは食品の廃棄を減らすには不十分だと私は考える。なぜなら、いくつかの調査によれば、八割前後の人が賞味期限の正しい意味や賞味期限を過ぎた食品を食べても健康上問題がないことを知っているという結果が出ているからだ。
賞味期限切れの近付いた食品はなぜ売れ残るのか。私の考えでは、原因は賞味期限切れの近付いたものと期限に余裕のあるものが同じ値段で売られていることにある。値段が同じなら、少しでも鮮度の良い、つまり賞味期限に余裕のあるほうを選ぶのは、食品の鮮度を気にする消費者としては当然である。一方、期限切れが近付いたものの価格を下げれば、消費者は新鮮で通常の価格のものと鮮度は少し落ちるが低価格のもののどちらかを選択できるようになる。(中略)
①
値引き販売をすれば賞味期限の近付いた食品の売れ残りは減少するのに、メーカーや小売店はそのことに消極的である。現状では、消費者の安全に配慮して期限切れ間近のものは販売せずに返品・廃棄している。しかし、賞味期限を過ぎても食べられるのだから、それを販売しても何も問題はない。購入した食品を消費者が正しく保存・管理しなかったせいで健康に問題が生じたとしても、それは本人の責任である。また、値引きが恒常化する
(注4)と定価で購入する消費者が減少し、ブランドイメージが低下するという考えもあるが、企業の社会的責任という観点からも食品の大量廃棄を続けるのは望ましくない。
現状ではメーカーや小売店は賞味期限切れの近付いた食品を売ろうという努力をせずに返品・廃棄しているが、それを購入するかどうかを消費者に委ねれば
(注5)売れ残りは減少し、食品の廃棄も減らせるはずだ。それゆえ、消費者庁はメーカーや小売店が返品・廃棄の前に値引き販売を実施するように指導し、消費者が食品を安く購入できるようにすべきである。
(熊倉和幸「賞味期限前食品の廃棄」よみトク小論文講座2010年12月7YOMIURI ONLINEによる)
(注1)賞味期限:おいしく食べられる期限を示す年月日
(注2)こだわりすぎる:気にしすぎる
(注3)啓発:人が気づかないでいることを教え、知識や理解を深めること
(注4)恒常化する:いつものこと、あたりまえのことになる
(注5)委ねれば:任せれば