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あなたはなぜ笑うのか、と問われたら、面白いと思ったからと答えるだろう。昔の哲学者アリストテレスは、笑うのは人間だけであると考えた。古代ギリシャの時代から、笑うことで気分が良くなるといった心理的な効果が指摘されていたらしい。
心理的な効果ではなく、身体的特徴を考えると、笑いは空気を吸ったり吐いたりするときに生まれるもので、呼吸と同じような現象である。近年、人間だけでなく、霊長類(注1)にも笑いのような現象があることがわかってきた。彼らは、追いかけたり取っ組み合ったりして遊んでいるときに、大きくロを開けて相手に歯を見せることがある。①このような行為は基本的に攻撃意図を示すが、遊んでいる状況では反対に、その意図がないことを示すメッセージになる。
しかし、人間の笑いは霊長類とは異なり、様々な社会的意味を持っている。相手の言ったことが面白いから笑うというように、笑いは他者とのかかわりの中で起こる。笑うことは相手への共感(注2)を示し、その場を明るい雰囲気にする。音声言語の最初のかたちは笑い声だと言う人もいる。現代と同じように人類の初期から笑いがコミュニケ一シヨンの道具として使われていたと考えると、その意見もおかしなものではないだろう。
(注1)霊長類:動物の分類の一つで、ヒトやサルの仲間
(注2)共感:他人の考えや感情を、自分も同じだ、その通りだと感じること