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 なかなか考え込む性質にあるので、生きることをしんどい(注1)と思うことも多い。
 こういう自分が今こうやって生きているのは、大袈裟にではなく、小説のおかげだと思っている。人によっては、それが素晴らしい漫画であったり、演劇であったり、音楽だったり、映画だったりもするだろう。
 僕は常に空腹であるように言葉を求めて、その言葉を自分の中に入れ、そこから自分なりに考え、言葉によって自分を守るように生きてきた。それは何も僕に言語のセンスがあったとか、頭が良かったとかいうわけではなく、わからないものは繰り返し読んできたからである。学生の時は、背伸びして色々なものに触れた。①そうしないと、逆に生きていけない気がした。
 学生の自殺の報道や、破滅(注2)を選んでしまう人達の報道を見る度に、色々思う。人生に絶望を感じるのは仕方ないと思う。誰もが明るく生きられるわけではない。家族も友人も学校も会社も助けにならない場合、しかしこの世界には、文化というものがある。文化は、すべての人間に対して、平等に開かれている。商業べ一スに乗った(注3)安易なものが溢れているからなかなか見つけにくい世の中だけど、自分を強く揺さぶり(注4)、救ってくれるようなものに出会えた時、もう1回生きてみようと思うことは、確かにある。

(中村文則「文化も救ってくれる」2009年2月21日付け産経新聞による)


(注1)しんどい:疲れて苦しい
(注2)破滅:人間や人生、家、国などがまったくだめになること
(注3)商業ベースに乗った:利益を得るための
(注4)揺さぶり:感動させて

1。 (1)①そうは何を指しているか。

2。 (2)筆者が考える「文化」の働きは何か。