地球の長い歴史の中で生物は進化と分化し、生物種の数は基本的には増える傾向にある。地球上の生物の種類が急激に増えたのが、カンブリア紀と呼ばれる約五億年前のことで、生物種の「ビッグバン」と呼ばれることもある。だが、その後生物の歴史の中では、過去五回、生物種の数が急激に減少する「大絶滅の時代」があったことが化石の分析などから分かって いる。(中略)
現在確認されている種の絶滅は、ほんの氷山の一角である。多様な生物が生息している熱帯林が減少する速度からすると、一年間に一千万種のうち二万七千種が絶滅していると推定されるとの研究結果が報告されている。現代は地球の歴史の中で六回目の生物の大絶滅時代だと言えるのだ。
六回目の大絶滅時代は、過去の五回と多くの点で違う。一つは生物が絶滅する速度が非常に速いということだ。化石の分析などから推定された自然界での生物絶滅の速度は百万種に対して一年間に一種というペースだ。多くの研究は、現在の生物絶滅の速度は自然に起こる生物絶滅の速度の百~千倍で、その速度はほとんど速くなっていると指摘している。今回の大絶減が、ほとんどが人間活動が原因で起こっているという点も過去と大きく異なる。自然に起こる絶滅は止めることはできなかった。だが、今回の大絶滅は人間の行動パターンが違っていれば起こることはなかった。逆に言えば、人間が行動を改めれば、絶減を食い止めることができるかもしれないということになる。
過去の大絶滅の後では、恐竜が減った後で哺乳類が栄えるようになったように、ある種の生物がいなくなったことで、他の生物が生息地を広げることができるようになり、その後比較的短時間のうちに種の数は増加に転じている。
だが、今回の大絶滅の場合は、速度が速いために生物が変化について行けない可能性がある。しかも、新たな生物が生まれる「ゆりかご(注1)」となるような湿地や熱帯林、浅い海などの場所は、人間の開発行為によって破壊され、汚染されている。大絶減からの復活につながる生物進化の力も、人間が奪っている可能性が高い。今この地球上で起こっている「第六の大絶滅」は、過去の五回とは質的に大きく異なり、地球の生態系にとって取り返しがつかないものとなる可能性が否定できない。
現在のペースで熱帯林やサンゴ礁、湿地などが破壊されたら、生物種の絶滅や生物多様性の損失は今後も急速に進むことが心配されている。しかも、今世紀半ばくらいには、地球温暖化の進行が生物種の絶減に拍車を掛けることになることも懸念されている。このままでは、地球の長い歴史の中で例がないほど生物多様性の減少が著しい、傷ついた地球を次世代に引き渡すことになってしまうのである。
(注)ゆりかご:ここでは、生物の生育に適した環境