(前略)自転車の取材を進めていると、必ずといってよいほど、「本当に自転車に乗る人のマナー
(注1)は悪いですからねえ」と同意を求められることが多い。
では、自動車の運転者や歩行者のマナーがそれに比べてよいのかといえば、日々自転車のサドルの上から両者の動きをつぶさに
(注2)見ている私には①
そうは思えない。
信号が黄色から赤に変わってからも、なんとか突っ切ろうと猛スピード
(注3)で交差点を渡ろうとする車、駐停車禁止エリアで路上駐車をしている上に、後方から自転車が近づいているのを確認しないで、運転席のドアを開けようとするドライバー、車道脇を自転車で走っていると、すぐ前の車がウインカー
(注4)も出さず、突然左折しようとして、ぶつかりそうになった経験は数知れない。まして、自動車の運転者は、免許制度のない自転車の利用者とは違い、道路交通法をきちんと勉強し、学科試験に合格して免許を取得した人ばかりである。その上で、危険な運転をしているとしたら、確信犯であるぶん、性質が悪いという見方もできる。
歩行者は歩行者で、携帯電話ばかり見ていて、まったく周囲に気を配らずに、堂々と赤信号を渡る姿に幾度となく出会うし、自転車レーンをまったく悪びれずに歩く集団に行きあうと、本当に②
がっかりする。
マナーの悪い人の「出現率」は、実は、車の運転手であろうと、歩行者であろうと、そうは変わらないのではないかというのが、私の経験上による結論である。自転車に乗っている人も、次の瞬間には歩行者になっていたり、別の日には車に乗ったりしているわけだから、同じ人が自転車に乗っているときだけ、マナーが悪くなっているとは思えない。
ただ、道路交通法違反をしていても、自動車ほど警察から取り締まられない
(注5)こと、歩行者のマナー違反に比べ、加害者として致命的な
(注6)事故を引き起こしかねないために、より見られる目が厳しいということにすぎない。
であれば、車と同様に、自転車も法規・マナーを守りましょうという精神論ではなく、規則の徹底とその厳しい運用で、誰もがルールを遵守する社会を作るほかない。
(佐滝剛弘『それでも、自転車に乗りますか?』祥伝社による)
(注1)マナー:態度、礼儀
(注2)つぶさに:細かく
(注3)猛スピード:とても速い速度
(注4)ウインカー:方向指示器、自動車などにつける部品で右や左などに進路を変更するときに方向を示すもの
(注5)取り締まる:不正が行われないように管理する
(注6)致命的な:(失敗や損害など)もとの状態に戻せない
(71)筆者は何について①①そうは思えないと述べているのか。
(72)②がっかりするのはなぜか。
(73)この文章で筆者が言いたいことは何か。