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未熟な(注1)人たちを育てることは、強い組織を創りあげる鉄則(注2)である。短期的な成果ばかりに目が行く上司は、能力の高い特定の人間だけを重用し(注3)、能力が低い人間には目が行かない。出来る人間は仕事が速く確かだし、任せていれば安心で自分がラクなのである。
一方、能力の低い部下は、細かく指示を出さなければならず、仕事は遅いし失敗することも多い。何かあったときに責任を問われるのは、上司である自分だ。できればそうした”落ちこぼれ”は、早く別の部署に異動させて(注4)、代わって優秀な社員を獲得したいだろう。
しかし、①それでは強い組織は出来上がらない。なぜなら、よくできる社員はすでによくがんばっているので、いま以上の伸びしろ(注5)はそれほど大きくないからだ。
上司が重点的に気をかけなければいけないのは、少し遅れ気味の部下、外れ者の部下、苦労している部下である。そういう部下は、手間はかかるかもしれないが、少し手を差し伸べれば、2〜3割は容易に伸びる。そうすることで組織を構成するメンバー全体の力を伸ばし、組織の底上げ(注6)ができる。結果として、与えられた業務目標を、組織として達成することができるのである。これぞ上司の本懐(注7)である。
組織の中で大きく伸びていく人材の多くは、新入社員時代にどんな部署の誰が上司であったかということが大きく影響するといわれる。まだ仕事というものがよくわかっていないとき「会社というのは……」「仕事とはこうするのだ」と的確に教えてもらえたかどうかが、その人の仕事人生を大きく左右するということだ。
(注1)未熟な:能力や経験が不十分な
(注2)鉄則:ここでは、絶対に必要なこと
(注3)〜を重用する:〜に重要な役割を与える
(注4)別の部署に異動させる:別の部に移す
(注5)伸びしろ:伸びる可能性
(注6)底上げ:全体のレベルを高めること
(注7)本懐:一番の願い