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豊かな時代に育った①若い人たちは、子供時代から学生を卒業するまで、「情の世界」の物差し(注1)を使って世の中を見る時代が続く。情の世界の物差しとは「好き」「嫌い」「感じる」「感じない」という物差しで、「イヤだったらやめる」ということが許される時代でもある。
しかし社会に出ると、これはまったく許されない。社会や会社は「論理の世界」だからだ。「八時に始まる」というのであれば、一分遅れて来てもそれは許されない。なぜなら「論理の世界」では、その規則や約束をきちんと守っていかなければ、仕事が先に進まない。たとえば一台のクルマをつくるのに必要な部品は、数千あるいは数万個あるだろう。しかしたとえその一つでも納品の時間が守られなければ、クルマは完成しないのである。
論理が先、情が後。
その順番を間違えない人が、会社や組織においてスムーズに仕事を進めることのできる優れた人材といえるだろう。だから「情の世界」で過ごしてきた若い人たちは、自分たちがその世界を卒業して「論理の世界」に入ったのだということを自覚(注2)してほしい。
さらには、ぜひ次のことも知っておいてほしい。「好き」「嫌い」「感じる」「感じない」という感性の物差しだけで生きてしまうとすれば、決して人間的な向上を図る(注3)ことはできない。一方で理性を働かせ(注4)、「正しい」か「正しくない」か、さらには「正しいことをしよう」「いいことをしよう」という努力をしていく過程の中で、自己向上が図られていくのである。
(注1)物差し:ここでは、評価の基準
(注2)自覚する:意識する
(注3)図る:ここでは、目指す
(注4)理性を働かせる:ここでは、感情に左右されることなく思考する