私たち、何かを伝えようとするとき、伝える内容の⽅に⼀⽣懸命になる。しかし聞く⽅は、予備知識も含め、あなたというメディア
(注1)全体が放っているものと、発⾔内容「⾜し算」で聞いている。
「仕事を抱え込んでしまって困っている⼭⽥さん」が、「新商品は、何をつくるかよりも、いかに新しいつくり⽅をするかです。」と⾔ったって、①
説得⼒がない。
しかし、新しいものづくりをしていると評判の⼭⽥さん」が、「新商品は、何をつくるかよりも、いかに新しいつくり⽅をするかです」と⾔えば、みんな「いいことを⾔うぞ」と聞き⽿を⽴てる
(注2)だろう。そういう状況の中で話し始めれば、同じことを⾔っても、よく理解され、発⾔は通りやすくなる。発⾔が通れば、信頼感が増し、さらに発⾔が通りやすくなると、いいスパイラル
(注3)になっていく。
どうしたら、あなたが⼝を開く前に、周囲の⼈から、あなたの話を聞こうという気持ちを引き出せるのか︖どうしたら、クライアント
(注4)が、あなたが企画書の表紙を開く前に、「あの⼈の企画なら間違いない」と思ってもらえるのか︖
⾃分の聞いてもらいたいことを聞いてもらえるメディアになる。
「メディア⼒を⾼める」とは、そういう意味だ。少し引いた⽬で、外から観た⾃分をとらえ、それを「こう⾒てほしい」という⾃分の実像に近づけていくことだ。
⾃分以上に⾒られたい、という⼈もいると思うが、私はその必要はないし、戦略としてうまくないと思う。考えてみてほしい。外から⾒て⼈があなたに期待する、その「期待値」に、常に⾃分の内⾯がともなわないのだ。②
コミュニケーションの⼊り⼝はよくても、関わるごとに相⼿は、期待以下の実感をもつ。コミュニケーションの出⼝には、「幻滅
(注5)」が待っている。
そうではなく、⾃分の偽らざる内⾯のうち、どの⾯を⾒せ、謳って
(注6)いくかだと思う。
「メディア⼒」をつくるものは何だろう︖(中略)
⾃分の営みによって、結果的に形成されていく部分が⼤きいと私は思う。⽇ごろの、⽴ち居ふるまい・ファッション・表情。⼈への接し⽅、周囲への貢献度、実績。何をめざし、どう⽣きているか、それをどう伝えているか︖それら全ての積み重ねが、周囲の⼈の中にあなたの印象を形づくり、評判をつくり、ふたたび、「メディア⼒」として、あなたに舞いもどってくる
(注8)。動きやすくするのも、動きにくくするのも、⾃分次第だ。
(⼭⽥ズーニー『あなたの話はなぜ「通じない」のか』筑摩書房による)
(注1)メディア︓情報を伝える⼿段
(注2)聞き⽿を⽴てる︓注意を集中させて聞く
(注3)スパイラル︓効果を増しながらくり返していくこと
(注4)クライアント︓仕事を依頼してきた⼈
(注5)幻滅︓期待を裏切られてがっかりすること
(注6)謳う︓表現し、主張する
(注7)舞いもどってくる︓もとのところに戻ってくる
(71)①説得⼒がないのは、なぜか
(72)② コミュニケーションの⼊り⼝はよくてもとは、どういう意味か
(73)筆者は、⼈に何かを伝える場合に⼤切なのは、どんなことだと⾔っているか