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液晶画面で見るいわゆる電子ブックも、今のところ紙で出来た本にとってかわるほどの勢いはない。たしかに書籍の出版は、世のデジタルな進歩だけでは追いつけないものを持っている。書かれた中身だけが「本」ではないのだ。装丁はもちろん、手に取ったときの感触やにおい等のデジタルなものにない物理性や、または目に見えないこだわりもそうだ。一冊の本は紙で出来たひとつの表現なのだ。
しかし、そう考えると逆に、別に①「本」である必要のないものが本になって出回っているきがしないでもない。本屋で平積みになった新刊を眺めていると、表現である以上に紙で出来た商品に思えてしまう時が多いのだ。
(近田春夫『僕の読書感想文』国書刊行会による)