ウサイン・ボルトが100メートルを何秒で走ってもわれわれの生活が変わるわけではない。急に収入が増えるわけでも、夏休みの宿題が付くわけでもない。
 それなのになぜだろう。ジャマイカ出身の、この陽気な二十三歳の青年の記録への挑戦が、これほど人の心を感動させるのは。ベルリンでの世界陸上選手権で、100メートルに続き、200メートルでも世界新記録を打ち立てた。後半100メートルのタイムは、実に9秒27!
 先の100メートルでは自己の持つ世界記録9秒69を一度に0秒11も縮めた。テレビの解説者によれば、「本来は0秒01縮まっても興奮する世界だ」そうだ。確かに過去の更新も0秒05ぐらいの短縮が、せいぜいであった。文字通り「けた違い」の記録だ。
どんなに「超人」に見えても、この長身の青年も、われわれ六十何億人かの一人にすぎない。その一人の青年がわれわれに人類の可能性を示してくれたのだ。
(「筆洗」2009年8月22日付け東京新聞朝刊による)



ベルリンで開催されている世界陸上選手権で、100メートルの世界新記録が生まれたと思ったら、すぐに、200メートルでも新記録が樹立された。もちろん、ジャマイカ出身のウサイン・ボルトである。
100メートルのタイムは、北京オリンピックで自ら出した世界記録を0秒11も縮めた9秒58、200メートルは19秒19だ。
確かに、これはおどろくべき記録なのだろう。今までになかったことなのだろう。新聞やテレビが大騒ぎするのもわからないでもない。日本の選手はいまだに10秒の壁も破れないでいるのだから。
しかし、どうだろうか。疑問に思うのは、その報道の仕方である。ジャマイカの選手が新記録を出したら、日本人選手にテレビの報道が過熱する。そして、選手はプレッシャーに負けて惨敗する。そのくり返しである。
いつになったら、なぜ日本選手は100メートル走で勝てないのか、その科学的分析ができるゆになるのだろうか。

1。 (63) AとBのどちらの記事にも触れられている内容はどれか。

2。 (64) 新記録誕生のマスコミ報道について、Aの筆者とBの筆者はどのような立場をとっているか。

3。 (65) 今回の世界新記録が今までの記録と違うのはどんな点か。