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 人間の肉体は、①自然の環境変化に対しては、かなり高度の適応を示す。しかし、②人工的な環境変化に対しては、適応力が格段に落ちる。たとえば、鉄分は血液中のヘモグロビンの生成のために不可欠の物質である。鉄分の摂取が足りないと貧血になる。この鉄分が過剰に摂取されると、不必要な分は自動的に体外に排出されてしまう。人体の鉄分の吸収能力を調査してみると、個人によって、また、同一人物でも日によって、吸収能力が変化することが分かった。つまり、体内の鉄分の量が増加すれば吸収能力は減り、鉄分が減れば吸収能力が増すというシステムになっているのだ。
 もし、水銀やカドミウムについても、これと同じような過剰摂取に対する適応システムが人体に備わっていれば、これらの人体に有害な物質によって発生した水俣病やイタイイタイ病などの公害問題は起こらずに済んだだろう。
 なぜ、人間の肉体は、鉄分の過剰摂取に対しては自分を防衛することができても、水銀やカドミウムに対しては防衛できないのか?
 それは、鉄分がほとんどあらゆる食物に含まれていて、つねに人体に入ってくることが予想されているのに対して、水銀あカドミウムは、自然状態の人間には入ってくるはずがないものだからである。責められるべきなのは、( A )ではなく、( B )なのである。

(立花隆『文明の逆説』講談社による)

1。 (50) ①自然の環境変化に対しては、かなり高度の適応を示す例として正しいものはどれか。

2。 (51) ②人工的な環境変化に対しては、適応力が格段に落ちる例として正しいものはどれか。

3。 (52) ( A )と( B )に入る最も適当な言葉はどれか。