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人間は自然を人工化する。いかにも自然そのもののような錯覚を与えながら、人間は自然を巧妙に人工の風景に変えてゆく。それが、人間が豊かに暮らすための新しい自然環境なのだとすれば、それをとどめることはできまい。そうしていつの間にか、山も平野も人間の目的に従った人工の風景に変わってゆく。
しかし、絶えず人工化しようとする人の手がかからなくなると、山も野も、すぐにもとの姿に返ってゆこうとする。まだまだ人間と自然の勝負は決まったわけではない。自然の( )というものが、今でもひそかに働いているのである。
(多田富雄『独酌余滴』朝日新聞社による)