色というものは、われわれに感動を起こさせるひとつの大きな要素です。外国で十年ほど生活していた間に、私は人々の衣服というものを見て、いろいろと感ずるところがありました。
たとえば、洋服と和服の違い。いちばん大きなものは、洋服がカット、つまり裁断によって、良くも悪くも作られている(41)、和服は伝統的に型が決 まっていて、カットの腕をふるう余地がほとんどないということです。型のみならず寸法まで、和服ならだいたい決まっていて、男ものも女ものも身体の大小が あっても相当に融通がききます。
(42)、洋服と和服とどういう違いが目立ってくるか。
洋服では、デザイナーたちはカットに努力を集中して、どんな線を出すかに苦心する。
和服では、その努力の余地があまりありませんから、色と柄に大きな関心が向く。つまり、洋服(43-a)が、和服は(43-b)が見せどころ、ということになります。
(44)、街角やあるいは博物館などで、和服というものを気をつけて観察してみると、これは実にすごい。すばらしい色の芸術です。はるか昔から、日本人はおどろくべき色の伝統を育て、(45)。原色だけで満足しない微妙な色の世界が、この国の文化には今もあるのです。