室効果ガス削減にどう取り組み、地球温暖化を止めるのか。その基本姿勢が揺らいでいるようでは、心もとない。政府が12日の
閣議決定をめざす温暖化対策基本法案づくりである。
鳩山政権は「他の主要国が野心的な目標を掲げる」との前提で、「2020年まで温室ガスを1990年比で25%削減する」との目標を掲げた。その実現に向けて努力する、という意思を体した基本法が必要だ。
京都議定書に続く温暖化防止の新しい枠組み( 41 )国際交渉は難航している。排出大国の米国と中国に目標の引き上げを促すためにも、基本法の制定で日本の意欲を示したい。
ところが、法案の内容をめぐって「環境と経済のどちらを重視するか」という対立の構図がいまだに続いている。
特に、温暖化防止策の大きな柱の一つであるはずの排出量取引制度をめぐり、意見の対立が深刻だ。
あらかじめ企業が排出できる二酸化炭素の上限を定めておき、それを( 42‐a )企業は余った分を売ってもうけることができる。逆に、上限を( 42-b )企業は、その超過分を購入しなくてはならない。排出量を減らすほど得をする仕組みである。
企業に削減努力を促す効果が期待されるが、排出の上限の決め方をめぐる対立が激しい。
環境省や環境団体は排出総量を規制すべきだとしているの( 43 )、
経済産業省や産業界は生産量あたりの排出量規制を主張している。
しかし、欧州連合(EU)の排出量取引市場や、米国が準備している取引市場は、いずれも総量規制に基づく。将来、この方式が国際標準になった場合、日本が違う方式にして不利な扱いを受けるようでは困る。
また、生産量あたりの排出量が減っても、景気の回復で生産量そのものが増えれば、排出総量は増えてしまう。
こうした条件を考えれば、大きな方向性としては排出総量の規制を原則とする( 44 )。
鉄鋼や電力業界には「企業の経済活動が妨げられる」として、大胆な温暖化対策に消極的な姿勢が目立つ。
日本企業が国際競争で不利にならぬよう、場合によっては例外を設けるといったやり方で配慮すべき部分があるのは事実だ。しかし、欧米と制度や競争条件を整えつつ低炭素化の技術革新で先頭を走ることこそ真の競争力である。その基本を重んじたい。
温暖化が進めば経済への打撃も大きい。目の前にあるのは「環境か経済か」という選択ではない。
環境税や排出量取引、自然エネルギー利用の拡大、原発の稼働率向上や老朽化( 45 )新設といった政策を大胆に進める。そんな基本法をめざし、対立を克服する努力を双方に求めたい。
(「朝日新聞」2010年3月9日付)