生物は、目に見えないほど小さな細胞からできており、その細胞の一つーつに含まれているDNAの情報によって、一つーつの細胞の機能が決定され、生物は個体として成長し、生殖し子孫を残した後は、個体としての生を閑えをるようにプログラムされている。
このことは、体長約1ミリの線虫を観察するとよくわかる。この「C.エレガンス]」と呼ばれる虫の細胞の数は959個(区雄同体)であり(雄は1031個)、1個の受精卵が、細胞分租を繰り返し、神経や腸や筋肉を形成していく過程が研究によって調べ尽くされている。どの細胞が後に神経に変わっていくのか、どの器官を形作るのか全てわかっているのである。
そして、それを調べる過程で、生命のプログラムは、単に成長を進めるためだけにあるのではなく、そこに細胞の死をも含んでいたことがわかってきた。例えば、カエルの子のオタマジャクシが成長すると、魚のような体に足がだ生えてきて、代わりにしっぽがなくなっていく。あるいは、人の胎児の場合も最初は手足の指が水鳥の足の水かきのようにつながっていて、それが指と指の間の部分の細胞がきれいになくなっていって、初めて独立した5本の指ができる。
このように、あらかじめDNAによってプログラムされている細胞の死をアボトーシスという。役目を終えた花が枯れ、秋になって本の葉が散るのもアポトーシスであり、生命を維持するために、古くなった組胞が処理され新しい細胞と入れ替わるのもアポトーシスの作用である。これに対して、外部から受けた傷や火復などによる細胞の死はネクローシスと呼ばれる。
このアポトーシスはあくまでも細胞レベルでの話であるが、これを人間の個体レベルまで広げて考えたら、どうだろうか。時が来れば死滅するという意味では、老化もまた緩慢なたアポトーシスと言えるだろう。人間もまた一つの生命として先天的に寿命をプログラムされているわけだから、いわゆる老衰死はまさにアポトーシスの現れということになるだろう。
ここで、その人間の寿命が現代社会ではどんどん延びてきていることに思い至る。ということはつまり、人間という生命体は、あらかじめ設定された寿命というプログラムを書き換えていることになるのではないか。人上類の平均寿命は20世紀の100年間で31歳から66歳へと倍以上に延びている。日本に限っても44歳から81歳へと2倍近くにまで延びているのである。
もちろんそれには、生活環境における危険の減少と医療の発達という要因も大きいのだろうが、今後、アポトーシスのメカニズムを解明していくことで、さらに人間の寿命が延びていくことが予想される。