お金持ちを悩ませる相続税そうぞくぜい贈与税ぞうよぜい、資産にかかる富裕税ふゆうぜいをそっくり( 41 )国がある。「福祉国家」で知られるスウェーデンだ。
 首都ストックホルムに近いダンデリード市の高級住宅街に住むベーテル・フアッレニウスさん(61)は、世界的な産業機械メニカー、ABB(本社・スイス)の副社長を務めた。当時は月収約25万クローナ(約275万円)。富裕税を払った。だが、2007年に富裕税は廃止。「当然だ」とファッレニウスさんはいう。「高額所得者が国外に( 42 )、国の競争力が落ちる。無駄を省いて、もっと税金を下げるべきだ」
 子どもは7人。04年に実現した相続税と贈与税廃止も歓迎だ。「ずっと高い税金を払ってきた。( 43‐a )徴収されるのはたまらない。( 43‐b )サービスは受けられない」相続税と贈与税はなぜ廃止されたのか。当時の社会民主労働党政権の財務相だつたペール・ヌーデルさん(49)は「中小企業では負担が重く、事業を引き継げない場合が多かった」と振り返る。相続税と贈与税が国の税収に占める割合も計約0.2%で、歳入に大穴があくほどではなかった。
 産業界も廃止を働きかけた。経緯を聞くため経済団体のスウェーデン企業連盟を訪ねると、エコノミストのヨーハン・ファルさん(45)は、スウェーデン生まれの二つの国際企業を例に挙げて、税金が企業を国外に追いやる可能性を強調した。おしゃれなデザインの家具で知られるイケア。現在、グループ持ち株会社はオランダにある。三角パックの紙容器を広めたテトラパックも本社はスイスだ。両社とも、創業家はスウェーデンを離れたとされる。ファルさんはいう。「税金が理由で移転したのだろう。相続税は経済活動にブレーキをかける」
 資本も資産も自由に世界を駆け回る。一方で税金は国ごとにかかる。ストックホルム大のベーテル・メルツ教授は「経済のグローバル化で資産を国外に移すのが簡単になり、金持ちから税金を取るのが難しくなっている」と話す。どうせ取れないなら、せめて( 44 )。スウェーデンはそう割り切つた。
 実は相続税がない国は多い。カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、イタリア、スイスが廃止。英国も生前贈与を利用すれば実質的に相続税を払わなくて済む制度がある。米国は息子のブッシュ政権が税率を( 45‐a )が、現政権は従来より低い税率で( 45-b )。中国やインド、タイなどにはそもそもない。
国税庁長官(こくぜいちょうちょうかん)渡辺裕康(わたなべひろやす)早稲田(わせだ)大教授は「海外では、相続税は不公平な税と考えられている」と断言する。大金持ちは専門家に頼んで、把握が難しい金融資産に変えたり、国外に逃げ出したりする。払うのは大都市に土地を持つような中産階級や小金持ちだけ。「米国では、払いたい人が払う『ボランタリータックス(自発的な税金)』と椰楡(やゆ)される」

(「朝日新聞」2012年7月2日付)

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