好みは3-2、とりわけ得失点が〇XX〇〇の順に並ぶ再逆転勝ちがいい。サッ力一の話である。これが堅守のイタリア(50)だと、通(注1)は1―0を尊ぶという。虎の子を守り通す(注2)展開だ。
 それもこれもお国柄。米国では、なかなか点が入らない「退屈さ」が嫌われ、サッカーは長らく見せるスポーツにならなかった。100点前後で競うバスケットボールの故郷である。0—0では気晴らしどころかストレスが(51)。
 W杯の日本代表が、イタリアン好みのスコアでカメルーンを下した。右足でセンタリング(注3)するかと思わせた松井が、切り返して左足でクロス(注4)を上げる。このタメ(注5)に反応した本田が守備陣の裏に回り込み、足元に収めたボールを落ち着いてけり込んだ。
 「金髪」の本田さん。優等生的な物言いが多い代表選手の中で、大阪弁の大口が異彩を放つ。それも(52)だと、ここ一番で証明してみせた。組織サッカーも、解きほぐせば個人技の積み重ねだ。次も存分に暴れてほしい。
 終盤、相手一撃がバ一をたたき、苦い記憶がよみがえった。ロスタイムは4分。いつもながら秒針のなんと(53)。ブブゼラ(注6)の大音響も構わず叫び続けたのだろう。試合を振り返る岡田監督の声はかれていた。
 4度目のW杯にして国外での初勝利。この一戦で、辛抱の果てには歓喜があると知った。残るオランダとデンマークも手ごわいが、16強への挑戦権を手に戦えるのは大きい。見る側は、最後までハラハラドキドキできる(54)。その先にワクワクがある。

(「朝日新聞」く天声人語〉2010年6月16日付)


(注1)通:よく知っていること。またその人
(注2)虎の子を守り通す:1得点を最後まで守る
(注3)センタリング:サイドから中央へパスすること
(注4)クロス:ボールを逆サイドにけること
(注5)タメ:すぐに攻撃しないで余裕をもづこと
(注6)ブブゼラ:南アフリカの民族楽器

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