以前、日本に来たある国のビジネスマンが言っていました。「東京は大都会なのに町の真ん中に大きい森があってびっくりしました」と。大きい森とは、明治神宮(注1)のことでした。高い所から東京を見渡すと、ところどころに①緑のかたまりが見えます。それは木々がたくさん集まっている場所で、その一つが明治神宮の森なのです。明治天皇(注2)が亡くなったのが1912年、明治神宮は明治天皇を祭るために建てられた神社で1920年に完成しました。この場所に明治神営が建てられると決まったころ、このあたりは作物があまり育たない荒れた(注3)土地でした。そこに神社にふきわしい森をつくろうということになって、庭づくりの専門家たちがいろいろ考え、②計画を立てて木を植えたのです。ここは、人の手でつくられた株のようには見えません。自然に近い森をつくるために、東京に大昔から自然に生えていた種類の木々を植えたからです。初めは12万本植えたそうですが、今は3万6千本に減っています。それは木々同士の競争が自然に起こって、弱いものは育たなかったからです。③昔からある自然の森と同じことが起こるようにと考えた庭づくりの専門家たちの計画どおりでした。競争に勝ち残った木は、今ではとても大きな木に成長しています。
ここでは、たとえ木が倒れても人は何もしません。ただ見守っているだけだそうです。すべてを自然のままにしているのです。今、ここを管理する人がしていることは、落ち葉を掃き集め、それを森の木々の根元に戻すことだけです。
何もない荒れた土地に木を植えて100年、森は大きく成長しました。これは100年前の人たちから私たちへの贈り物なのです。
(注1) 明治神宮 : 東京にある大きい神社
(注2) 明治天皇 : 1867年から1912年までの天皇。 天皇 : 古代からの日本の君主の称号
(注3) 荒れた土地 : 石なとが多く作物が育ちにくい土地