(7番)
tuhocjlptくん、
ぼくはついに①
例のものを持たずに旅に出ました。
おわかりですか?
例のもの、ほら、ぼくがむかしから旅行にはかならずたずさえて
(注1)いったものです。②
本当はそれを持たずに旅をしたいと、もう何年ものあいだ、ずっと考えつづけてきた例のもの。
もうおわかりですね。
苦笑していらっしゃるあなたの顔が眼に浮かびます。そうです。ぼくは、ついにやったのです。あれを持たずに風のように軽いバッグをたずさえてニ泊三日の北陸
(注2)のドライブ旅行に出発したのです。
その名は、カメラ。
もう一度あなたに自慢させてください。ぼくはついにあのふしぎな力を持つ機械から自由になりました。自分の眼と心のフィルムをとりもどしたといってもいいかもしれません。
(五木寛之『若き友よ』幻冬舎)
(注1)たずさえる:持つ
(注2)北陸:北陸地方(新潟県、富山県、石川県、福井県)