(6番)
①
僕は、本を読むのが嫌いだ。極端な
(注1)いい方をすると本というものは過去のものしか書いていない。僕は、本を読むと、それにとらわれてしまって、何だか退歩するような気がして仕方がない。だいたい、僕の人生は、いわゆる見たり、聞いたり、試したりで、それを総合して、こうあるべきだということで進んできた。もしわからないようなことがあって、そのために本を読むんだったら、そのヒマに人に聞くことにしている。五〇〇ページの本を読んでも、必要なのは一ページくらいだ。それを探し出すような非能率なことはしない。うちには大学出はいくらもいるし、その道の専門家に、課題を出して聞いた方が早い。そして、それを自分の今までの経験とミックスして、これならイケるということでやっているだけで、世の中の人は、本田宗一郎は、ピンからキリまで
(注2)やっていると思っているようだが、とんでもない。
結局、僕の特長は、ざっくばらんに
(注3)人に聞くことができるということではないかと思う。つまり、学校に行っていないということをハッキリ看板にしているから、知らなくても不思議はない。だから、こだわらずに
(注4)、だれにでも楽に聞ける。これがなまじっか
(注5)学校に行っていると、こんなことも知らないんでは、だれかに笑われると思うから、裸になって人に聞けない。そこで②
無理をする。人に聞けばすぐにつかめるものが、なかなかつかめない。こんな不経済なことはない。
(本田宗一郎『ざっくばらん』ド只?研究所
(注1)極端な:非常にかたよっている
(注2)ピンからキリまで:小さいことから大きいことまで全部
(注3)ざっくばらんに:遠慮しないで
(注4)こだわらずに:気にしないで
(注5)なまじっか:ちょっとでも