私は①靴に四十年も悩まされてきた
私は、中学二年になって急に身長が伸びてきた。妹の私が兄を追い越した。いっしょに足も大きくなった。高校生のときは、大きい靴がとてもはずかしかった。就職して初めての給料で、いちばんに靴を注文した。しかし、出来上がった靴は、かわいらしいとはとても言えないものだった。
それからずっと、靴には困らされてきた。足に靴を合わせるのではなく、無理をすれば履けそうな靴に、足を合わせてきた。縮めていた指は、変形し、爪は何度生え変わったことか。痛くならない靴などないのだと、あきらめていた。
ところが五年ほど前、何となく開いた雑誌に東京の小さな靴屋が紹介されていた。私と同じように合う靴がなくて悩み続けていた人が、そこの靴で悩みが解消されたという話も出ていた。これなら、と期待がふくらんだ。
数か月後、用事で東京へ行ったついでに、その靴屋に寄ってみた。心配そうに靴を脱いで見せた私の足に、靴屋さんはさわって言った。
 「②これは大変でしたね。腰まで痛かったでしょう。」
そうして、試しに履かせてくれた靴の履はきやすさといったら……足をやさしく包んでくれて、指はのびのび伸ばせる。こんな靴がこの世にあったのか、と感動した。そのまま履はいて帰りたかった私は、その場で一足注文した。
 「海辺で育ちましたか?」と、靴屋さん。
 「ええ。海のすぐ近くではなかったですが……」
 「そうですか。魚をたくさん食べて育った人の足ですよ!」
 「ん?……ええ、魚は大好きです。でも、どうして?」
 「三浦海岸に住んでる人も同じ足でしたよ。どうしてなのかねえ……」
 靴屋さんの笑顔が、③(  )。四十年かかって、ようやく出会えた笑顔だった。

(宮部紀子「魚を食べた足」『片手の音―05年版ベスト・エッセイ集』文藝春秋による)


 

1。 (1)筆者はなぜ、①靴に四十年も悩まされてきた

2。 (2)②これは大変でしたねとあるが。何が大変だったのか。

3。 (3)③(  )に入る言葉として最も適当なものはどれか。