まとめ、というのは、実際やってみると、なかなか、たいへんな作業であることがわかる。その面倒さにてこずったこ
(注1)とのある人は、だんだん、整理したり、文章にまとめたりすることを敬遠する
(注2)ようになる。そして、ただ、せっせと本を読む。読めば知識はふえる。材料はいよいよ多くなるが、それだけ、まとめはいっそうやつかいになる。こうして、たいへんな勉強家でありながら、ほとんどまとまった仕事を残さないという人ができる。
もうすこし想を練らなくては、書き出すことはできない…卒業論文を書こうとしている学生などが、よ<、そう言う。ぐずぐずしていると、時間がなくなってきて、あせり出す。あせっている頭からいい考えが出てくるわけがない。
そういうときには、
「とにかく書いてごらんなさい」
という助言をすることにしている。ひょっとすると、書くのを怖れる気持があるのかもしれない。それで自分に口実をもうけて、書き出すのを一日のばしにする。他方では、締切りが迫ってくるという焦燥
(注3)も大きくなってくる。
頭の中で、あれこれ考えていても、いっこうに筋道が立たない。混沌とした
(注4)ままである。ことによく調べて、材料がありあまるほどあるというときほど、混乱がいちじるしい
(注5)。いくらなんでもこのままで書き始めるわけには行かないから、もうすこし構想をしっかりしてというのが論文を書こうとする多くの人に共通の気持ちである。それが①( )。
気軽に書いてみればいい。あまり大論文を書こうと気負わない
(注6)ことである。力が入ると力作
(注7)にならないで、②
上すべりした(注8)長編に終わってしまいがちである。いいものを書きたいと思わない人はあるまいが、思えば書けるわけではない。むしろ、そういう気持をすてた方がうまく行く。論文でなく、報告書、レポートでも同じだ。
(外山滋比古 『思考の整理学』筑摩書房)
(注1)てこずる:難しくて苦労する
(注2)敬遠する:避ける/やりたがらない
(注3)焦燥:気持ちが急ぐこと
(注4)混沌とした:混乱してはっきりしない
(注5)いちじるしい:はっきりわかる
(注6)力作:立派な作品
(注7)気負う:がんばろう、うまくやろうと思う
(注8)上すべりした:表面だけの