(1)1000円のモノを500円で買う
(2)101万円のモノを100万円で買う
 ふたつの例のうち、どちらが得とくをしているだろうか?
 1000円のモノを500円で買う。これは2倍得した(注1)ような気分になる。確かに割合にしたら50%引きだ。
 それに対して、101万円のモノを100万円で買った場合、値引きの割合はたったの1%弱で、101万円も100万円も額としてはたいして変わらないような気がする。
 しかし、心を落ち着かせてよく考えてほしい―1万円も得をしているのだ!この金額の前では、もはや500円の損得なんてどうでもいい。
 だから私は、1万円以下の買い物での很得には目をつぶり、大きな買い物に対してだけ口出しするようにしたのである。
 このように、費用の削減(注2)はパーセンテージで考えるべきものではなく、絶対額で考えるべきものなのだ。
 お金に対してこういったポリシ(注3)がない人は、高い買い物をする際に、「101万円も100万円もたいして変わらないから、お店の人の勧すすめるほうでいいや」と考えてしまう。
 家の購入(注4)や結婚式の費用などでどんどん出費が増えていくのは、こういう背景(注5)があるからだろう。お店の人も「家の購入は人生の一大イベントですから」「結婚式は一生に一度ですから」と勧めるので、なぜか「高くてもいいや」と思ってしまう。そんな人に限って、スーパーでの買い物で10円単位をケチったりする(注6)のだから①おもしろい
 こんなことをいうと、「10円単位で節約することが大切なんだ。『チリも積もれば山となる』(注7)というだろう」というお叱りを頂戴ちょうだいしそうだ。
 しかし、毎日10円を節約しても1年間で3650円である。だったら、1年で一度1万円の節約をしたほうがはるかに効果的だ。「普段はケチをしてもいいけど、たまにはパッとしたい」という人もいるが、②これはかなり危険な思想である。
 たとえば、毎日100円節約して、たまにパッと5万円を使った場合、次のようになる。  
 100(円)×365(日)- 5万(円)= △ 1万3500円
 (△はマイナスを意味する)
 残念ながら赤字である。こういう人は非常に赤字を出しやすい性質たちなので、経営者には向いていない。要は節約した気分になっているだけで会計をみていないのである。

(山田真哉 『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?身近な疑問から始める会計学』光文社)


(注1)得とくする:何かをした後、お金などが前よりも多く残る
(注2)削減さくげん:減らすこと
(住3)ポリシー:行動の基本方針ず
(注4)購入こうにゅう:買うこと
(注5)背景はいけい:後ろ、裏側
(注6)ケチる:金を出したがらない
(注7)チリも積もれば山となる:小さいものでもたくさん集まれば大きなものになる

1。 (1)①おもしろいと言っているが、何がおもしろいのか。

2。 (2)②これはかなり危険な思想と言っているが、なぜ危険なのか。 

3。 (3)筆者がこの文章でいちばん言いたいことはどんなことか。