誰でも子供の時というのは黄金時代なのである。その時には何も感じないような平凡へいぼんな出来事でも、時をへてみると、いつしか
(注1)黄金に変わっている。①
ふだんは気がついていなくても、あの時にへと想いを馳せれば
(注2)、 そこいら中
(注3)、黄金おうごんでないものはない。
子供の頃の雑誌か何かの教材
(注4)で、点がばらばらに投げ出されていて、その点に番号が打ってある。その番号順に点を結んでいけば、ライオンやゾウの姿が浮かんでいる。これは数字を学習するための教材なのであるが、私は幼い頃の記憶もこれに似ていると思う。散らばった点は無数にあり、②
星のように光っているものも、燃え尽きて消え人ろうとするものもあるのだが、点と点とを結んでいくと記憶がありありと甦よみがえってくる
(注5)。消えそうな点も、もう一度輝き出すのである。
そうやって現れてくるものは、結んでいく点の順番によって、どのようにでも変わっていく。(中略)
昔はみんな子供だったのである。誰もが記憶の中に黄金を埋蔵させている
(注6)。問題はそれを掘り起こすかどうかであって、掘ろうという意志いしを持ったとたん、地下鉱脈を
(注7)掘りあてたかのように③
黄金はあふれ出してくる。
(立松和平「いい人生」野草社による)
(注1)いつしか:いつの間にか
(注2)想いを馳せる:遠く離れている人や物事ことを思う。
(注3)そこいら中:そこも、ここも、全部
(注4)教材:教えるための材料や道具
(注5)甦る:死にそうだったり、消えそうだったりしたものが、もう一度元気になる
(注6)埋蔵させている:土の中に理めてかくしてある。
(注7)鉱脈:役に立つ鉱物が理まっているところ