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十年ほど前に、ある私立大の教養ゼミで、当時盛んだったリゾート開発にっいて話し合った時のことだ。一人の学生が富山から来ていると言うので、私は「富山は海はきれいだし、後ろに北アルプスもあって、とてもいいところじやないか」と話しかけると、その学生は「でも何も遊ぶものがないんです」と答えた。(中略)
かつて子どもたちは、学校から帰るとカバンを学校に放り出し、夕方まで近所の空き地で遊んだものだ。このごろ家の中でのパソコンゲームなどが主となり、戸外で遊ぶことが少なくなっているらしい。
三年前、二十年ぶりに尾瀬ケ原を訪れ、年配の女性が多いのに圧倒された。育児や家事から解放された年配の女性が元気に山を歩く姿を、そのときは好ましく感じた。しかし、やはり、若者の自然離れには憂いを覚えざるを得ないのである。
自然を楽しむことが少なくなったのは、子ども、若者だけでなく、その親の世代でも同様であろう。世代を越えた自然離れは、( ① )客が減って閉鎖したスキー場が出ていることにも現れている。
限りなく続く砂浜、一面の草原、深い森。②
そうした場所で、ゆったりとした時間を過ごすことは、思いがけない動植物との出会いもあったりして、貴重な経験になるはずだ。しかし、残念なことに、四季折々、弁当を作って里山などに遊びに出かけていく家族の姿を見かける機会は、間違いなく減っている。
(朝日新聞夕刊2002年9只18日による)