日本人ほど何かといえば贈り物をしている民族はいないようで、外国人(50)大変不思議に思うらしい。
まず贈り物の名前からして、送る季節や機会(51)違っている。暮れの贈り物は「お歳暮」で、お正月(52)贈り物は、子供に与えられるのは「お年玉」、大人に贈るものは「お年賀」になる。そして夏の初めに贈るのが「お中元」である。旅行から帰ってきて、待っている留守番の人への贈り物は「お土産」で、別れて遠くに行く人への贈り物は、以前は「はなむけ」、現代では「お餞別」である。しかし、これらは欧米ではみな「プレゼント」でひとくくりにされるだろう。(中略)
なぜ日本語にはこのように贈り物(53)言葉がたくさんあるのだろう。日本人は、社交の上で贈答する関係を重んじしる。物を与える動詞でも、手前からよそへ行くのは「あげる」「やる」と言い、よそから手前の方に来るのは「くれる」「くださる」と言って区別する。英語のgiveにはそんな区別はない。
ただしA君とBさんとがやりとりをしているのは、「A君がBさんにお菓子をあげた」「BさんはA君に果物をあげた」と言って区別しない。「A君は私に果物をくれた」と言って自分のところに物が来たときに(54)、言い方を違えるのである。これは日本人は他人からもらったのをありがたいことだと感謝している。そういうやさしい気持ちを反映しているというように解釈したい。
(金田一春彦"やっぱり、日本語にはかなわない,による)