「二足のわらじをはく」とは、「1人の人が異なる2つの種類の仕事を同時にする」という意味である。この「二足のわらじ」が注目を浴びた( 41 )、日本人映画俳優のSさんが選挙に立候補して、「国会議員を務めると同時に、俳優として映画にも出演する」と宣言したときである。選挙の結果、彼は見事に当選を)たした。しかし、俳優としていかに輝かしい活躍をしてきたSさん( 42 )、議員として十分な活動が果たせるかどうか、これを危ぶむ声が後を絶たなかった。「二足のわらじは到底無理」という声や、Sさんに対して「政治の専門家ではない」「政治を甘く見ている」という厳しい意見も聞かれた。しかし彼は、「欧米では異なる仕事に就きながら政治家として立派に活動している人もいる」と反論していた。
 「二足のわらじ」は果たして成功するのかと日本中が注目した。( 43 )就任してわずか1か月後、Sさんはあっさりと映画俳優としての引退を発表した。「政治の仕事に専念したい」というのである。当然ながらマスコミは「やはり二足のわらじは無理だった」、「約東を守らなかった」などと批判をした。
 日本人は政治家という仕事に高い専門性を求めている。Sさんの場合、俳優としての活躍ぶりがめざましかっただけに、( 44-a )が俳優業も行うというよりは、( 44-b )としての職が副業であるかのように見えてしまったのかもしれない。
  実際に「ニ足のわらじ」は不可能だったのだろうか。それを試す機会が失われてしまった法2交ことは、我々にとっては残念( 45 )。

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 「ジェネリック医薬品(後発こうはつ)医薬品)」という言葉を耳にするようになって久しい。最近はテレビでもCMが流れるようになった。( 41 )ジェネリック医薬品はまだそれほど普及はしてないのが実情である。では、なぜ日本では普及が遅れているのか。その大きな理由の一つが情報量の少なさであろう。例えば、持病じびょう)で10年間同じ薬を飲み続けてきた患者が、突然医師に「中身は同じで値段が半分のジェネリックがあるが・・・」とすすめられた場合、この患者は迷わずジェネリックを選ぶだろうか。答えは「ノー」だ。中身が同じ、値段が安いというだけでは( 42 )。10年間親しんだ従来の薬のように自分の体に合っているのか確証を持つことができないからだ。事実、ジェネリック医薬品は先発せんぱつ)医薬品の全く同じコビー商品なのかというと( 43 )。同じなのは主成分だけである。飲み薬の場合を例にとると、錠剤かカプセルかなど形状が異なるだけでも薬の作用が大きく変わることがある。先発医薬品はたしかに高いけれど長く使用されているだけあって、その安全性や危険性について十分な情報がある。しかし、ジェネリック医薬品にはまたそれがない。病気の適切な治療( 44 )逆に体に害を与えるおそれまであるのだ。ジェネリック医薬品に変えるということは、安価という( 45-a )と引き換えに、十分に有効性と安全性が確認されていない薬を使用する( 45ーb )を患者が負うことになるのだ。

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 紅葉が見られるところは日本だけではないが、日本の紅葉は( 41 )美しいと言われている。この美しい紅葉には気候、風土が大きく影響している。
 木の葉が鮮やかに発色する条件とは何だろうか。まず、赤や黄色の色素となる成分を活発に作るための強日光が必要である。そして夜間には気温が下がり、樹木じゅもく)が活動を休むことによって、作られた成分が( 42 )紅葉が鮮やかなものになる。また、葉が乾燥しすぎると紅葉する前に枯れてしまうこともあるので、適度な雨も欠かせない。したがって、紅葉には日当ひあ)たり、( 43 )、水分という3つの要素が重要だということになる。山や渓谷けいこく)に紅葉の名所が多いのは、この3つの条件が揃っているからである。
 紅葉する落葉樹が群生している地域は、世界でも東アジア沿岸部と北アメリカ大陸東部、およびヨーロッパの一部( 44 )。日本は国土の7割に及ぶ森林に多種の落葉樹が生えており、温度差のある気候などの好条件も( 45 )、他の国々よりいっそう紅葉の美しさが際立きわだ)つのだろう。

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 グローバル化が進むとともに、世界各国に駐在する日本人の研究者やビジネスマンも増していて、世界で日本人のいない国はないと言われるほどだ。それゆえ、通信業界でもさぞたくさんの日本人特派員が各国に派遣されているかと( 41 )、そうではないのが実情である。新聞で何かと取り上げられることの多い中東地域においてさえ、( 42 )。
 このように支局の数、特派員の数が多くはない通信社は、どのようにして情報を入手しているのたか。イギリスやアメリカの大通信社は、世界中に張りめぐらせた通信網によって各国から情報を集めているが、この情報収集には膨大)な資金を必要とする。( 43 )、資金面で苦しむ国々の通信社は自力で情報収集を行わずに大通信社から情報の配信を受けることが多くなる。これは一見合理的に思えるシステムだが、問題がA国の通信社が取材して得た情報は、あくまでA国の視点で取材されたものであり、その国のその時点での情勢がから)んだ情報である可能性もある。つまり、私たちが得ている情報は、グローバルな情報網から得たものであればこそ、量的には不足はないかもしれないが、質的に見ると、( 45 )ということである。

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 インターネトによるDVDやCDの宅配レンタルサービスが急成長している。ネット上で借りたい作品を予約すると、それが自宅に配達されるというシステムだ。インタネットが広く普及した現代( 41 )のサービズである。これはいくつかのプランがあり、毎月支払う金額によって、借りられるDVDやCDの枚数が決まる。見終わったら郵便ポストに返却すればよいので、楽でもあるし、延滞料金の発生を防ぐこともできる。このサービスを利用する会員は30代以上の人が7割を占めるという。( 42 )「自宅届く」のが魅力で、会員は仕事や育児で忙しくて店舗に( 43 )といイが中心となっている。このサービスのおかげで、テレビの前に家族が集まる時間が増したという家庭も少なくないことは、想像に( 44 )。
 このサービスを提供しているT社は、顧客こきゃく)の要望に的確に対応することが宅配レンタル事業の成長につながると考え、その仕組みを作り上げた。仕組みの柱となるのは顧客である会員へのサービスの拡充である。メールなどで寄せられる会員の要望や苦情をカテゴリー別に分類し、それを担当部門の会議で検討する。退会する会員にはその理由を聞き、部内にフィードバックしている。( 45 )顧客の満足を売り上げ増につなげる新サービスを開発しているのだ。

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 父が父でなくなっている。家族を統合し、理念を掲げ、文化を伝え、社会のルールを教えるという父の役割が消えかけている。( 41) 、家族はバラバラになって、善悪の感覚のない人間が成長し、全体的視点のない人間や無気力な人間が増えている。
 父としての役割は立派な父でないと果たすことができない。立派でない父が家族を統合しようとし、理念を掲げても、家族から無視されるだけである。立派な父が必要とされているのに、その立派な父が育ちにくいのが現代社会である。そもそも「立派」などというものが流行らない世の中なのだ。全体の将来を考えてリーダーシップをとり、取りまとめ、ルールを教えるという「立派な」人格は、尊敬の対象にはなりにくい。あまり立派でない、むしろだらしのないくらいの父親のほうが (42) 。
 父でなくなった父の典型が「友たちのような父親」である。彼らは上下の関係を意識的に捨ててしまった。価値観を押しつけることは絶対にしない。何をするのも自由放任である。しかし (43) は「自由な意志」を持つようにはなるが、「よい意志」を持つようにはならない。
 「友だちのような父親」はじつは (44) 。父とは子どもに文化を伝える者である。伝えるとはある意味では価値観を押しつけることである。上下の関係があり、権威を持っていて初めてそれができる。しかし (45) の関係では、文化を伝えることも、生活規則、社会規範を教えることもできない。「もの分かりのいい父親」は父の役割を果たすことのできなくなった父と言うべきである。
 

(林道義『父性の復権』による)

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 いまはコミュニケーション能力が過剰に求められる時代である。職場でも学校でも、あるいはもっとプライベートな空間でもいい。あらゆる人間関係において、自分の価値を認めてもらうためには高度なコミュニケーション能力が必要とされる。書店に行けばコミュニケーション能力を高めるための自己啓発本があり余るほどでているし、わざわざそのための学校に(4 1 )。
 確かに、いまの産業のあり方をみると、コミュニケーションが富を生み出す経済活動の中心にきていることがわかる。製造業は人件費の安い海外に工場をどんどん移転させ、国内に残っているのは、マネジメントや企画、研究開発、マーケティングといった本社機能的な仕事ばかり。そこでは、組織をまとめあげる、アイディアを出す、交渉する、プレゼンをする、ディスカッションをするといった、高いコミュニケーション能力が必要とされる活動がどうしても物を言う。社会のあり方が、工場中心からコミュニケーション中心へと大きく転換しているのである。
 しかし、コミュニケーション能力が、人びとの価値を決める独占的な尺度になることは、 (42) 。事実、コミュニケーションべたで自己アピールにそれほど長たけ(注1)ていなくても、能力のある人はいっぱいいる。私も大学でゼミを指導していると、ゼミの議論では目立っていてもリポートの出来はそれほどでもない学生や、逆にゼミではおとなしくてもすばらしいリポートを書いてくる学生に頻繁にであう。コミュニケーションの巧みさと本人の能力は必ずしも一致しない。もちろんコミュニケーション能力も人間の能力の一つではある。だから、それが評価基準の一つになることは当然あっていい。 (4 3) 、コミュニケーション能力をめぐる過当(注2)な競争は、人間関係にひずみをももたらすだろう。
 引きこもりは、社会のなかで要求されるコミュニケーション能力があまりに高いため、一度他者とのコミュニケーションにつまずくと、なかなか新たなコミュニケーションに踏み出せなくなってしまうことから生まれる。引きこもりまでいかなくても、周りとのコミュニケーションのなかで自分がまともに相手にされなければ、誰だって心を閉ざしてしまい、内にこもりがちになるだろう。コミュニケーション能力をめぐる競争が激しい社会は、 (4 4) 人にとても冷淡だ。
 また、いじめは、子供たちのコミュニケーション能力の欠如からおきているのではなく、逆に、みんなが空気を読みすぎることで生じるストレスのはけ口を特定の人間に向けることでおきている。こうしたストレスや重圧は、子供に限った問題ではない。空気を壊してはならないという圧力は、人々にコミュニケーション能力をさらに要求するだろう。しかし、それが進めば、社会のなかで同調圧力が強まり、社会そのものが萎縮(注3) (4 5)。

(萱野稔人「私の視点」2009年4月9日付朝日新聞朝刊による)


(注1)長(た)ける:優れている
(注2)過当(かとう)な:適当な程度を超えている
(注3)萎縮(いしゅく)する:元気がなくなる

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 地面をニヨロニヨロはう茶色のミミズ(注1)を好きな人は、あまりいないだろう。しかし このミミズは4億年もの間、地球の生物、環境に大きな恩恵を与えてきたのだ。
 大食いのミミズは、自分の体重と同じくらいの落ち葉を食べる。そして大量のフンを出 すが、その中には普通の土と比べてカリウムが11倍、リンが7倍、窒素は5倍含まれる。(41)ミミズは植物が日光から作った栄養を消化して、土に再生しているのだ。だか らミミズがたくさんいる土はふっくらと柔らかく、有機物を大量に含み、農業に向いた土 .になる。
 またミミズが地面の中を通ったあとは細長いトンネルになって、土はやわらかいスボン ジのようになる。雨が降っても、水がすぐしみ込むので洪水にならない。また干ばつのと きも、ミミズのいる土は水を含んでいるので、植物が(42)。そのトンネルには植物が容易に根を伸ばすことができ、しかも中は栄養豊富なので、植 物はますます成長するというわけだ。
(43-a)は(43-b)が休んでいる間も、大地という工場でせっせとすばらしい土を 生産し続ける、勤勉で優秀な労働者なのだ。
 だが現代日本では気軽に殺虫剤を大量散布するようになり、ミミズが減っている。ミミ ズのいない土は固くなり、空気も雨水もしみ込まない土になる。(44)強健なミミズ が殺虫剤に耐えたとしても、そのミミズを食べた小鳥や小動物が死んでしまう。
 進化論で有名なイギリスの学者ダーウィン(Darwin)は、ミミズを研究し『ミミズと土 J という本を著したeその中で書いているa「もしミミズがこの世にいなければ、植物ほ全滅 してしまうだろう。世界の歴史において、ミミズ以土に重要な役割を果たした動物が、(45)と。
(注)ミミズ=環形動物の一種。"

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過去最低の内定率、内定切りなど、学生たちは厳しい就載活動を(41)そうした中、 学生たちに、就職に有利な「新卒Jの立場で就職活動ができるように「希望留年制度」を .設けて支援する大学が出てきている。ただ、企業のいきすぎた「新卒主義」を苦々しく思 う大学関係者も少なくない。(中略)
 S大学は昨年、就職活動を続けたい学生向けの卒業延期制度を始めた。申請して認められ れば学費約54万円が半額になる。昨年度の就職希望者の内定率が97%で、(42)臨時救済措置だったが、今年度は89%とさらに厳しい状況になり、維続することになった。(中略)
 日本の雇用システムは、明白な「新卒主義」だ。特に大企業は新卒を優先して採用する。 あえて単位を(43-a)卒業論文などを(43-b)して就職留年する学生は以前からいた が、一昨年の金融危機以降、多くの大学が学生支援のために導入した。
 ある地方大学で就職支援を担当する職員は「本来(44)が、新卒にこだわる企業は 多い。『新卒に限る』として.いる大企業まであるのが現だ」。別の大学の担当者も「既卒 をほとんど採らない企業が多く、こういう対応を(45)と話す。

(「朝日新聞」2010年3月29日付)

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 日本でも、ほかの先進国の例にもれず、急激な少子化が始まっている。
 1970年には21人だった出生数が、1995年には人口を維持するのに必要な2.08人を大きく下回る142人に落ち込み、2005年には125人と、韓国の1.15人(41)低い出生率となった。原因はいろいろ考えられるが、まず若い男性が長時間労働を強いられ、育児の負担がひとり母親にかかっていることがあげられる。
 さらに子ども1人を大学まで卒業させるには2000万円かかるれると言われる。育児のために母親がいったん仕事をやめると、再び正社員になることは非常に難しい。ずっと正社員で働いた場合と、退職して再びパートタイム労働などに就いた場合の生涯賃金の差は、なんと1億円を越えるという試算が出され、人々にショックを与えた。
 子どもを持てば(42-a)が増える一方で、(42-b)が激減するのだ。
 男性もこの不景気とあいまって収入の不安定な人が増え、夫婦で共働きを(43)なっているのが現状だ。
 女性が働き続けなければ、子ともに満足な教育を与えられない。しかし、子どもを持てば残業もこなす正社員でい統けるのは困難だ。結局、子どもをあきらめるということになる。
 危機感を抱いた政府は「エンゼルブラン」と銘打って育児支援を始めたが、厳しい現実の前に(44)。もはや子どもを増やす対策よりは、少子化社会という現実(45)対策を立てるべきときなのかもしれない。

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