「医療崩壊を食い止める」。今春の診療報酬改定にあたり、
厚生労働省の関係者らは繰り返した。だが、医師不足の解消に本気で取り組まない限り、危機は克服できない。
改定では救急や産科、小児科などでの治療に対する報酬が4月から増えた。これらの分野を強化するのは当然の( 41 )。
奈良県大淀町で2006年8月、町立病院で出産中に意識を失った妊婦が19病院から受け入れを断られ、脳内出血で死亡した。08年には
東京都で脳出血とみられる妊婦が7病院から断られ、亡くなった。
こうした悲劇を繰り返すまいと、奈良県や東京都などは現場の医師らの努力で、( 42‐a )された妊婦を必ず受け入れる( 42-b )づくりを急いでいる。
妊婦の搬送が拒否される一因とされる新生児集中治療室(NICU)の不足にも目が向けられた。政府はいまの1.5倍にあたる約3千床が必要と試算。大学病院や自治体もNICUを増やそうとしている。
だが、設備を整えても産科救急の危機は解決しない。それを使いこなす新生児科医や産科医が足りないことが最大の問題だからだ。
新生児科医は、小児科などの教育のうえに専門研修が( 43 )、全国に千人ほどとみられる。その1.5~2倍が必要であると、新生児科医の団体は試算している。
医師不足は過重労働につながっている。当直の翌日でさえも通常通りに働くという無理な勤務が続いている病院が少なくない。
医師不足に対処しようとする動きが現場にも出てきた。
神奈川県立こども医療センターの新生児科は昨春、新生児科医をめざす小児科医のための短期研修制度をつくった。NICUを使える医師が各地に巣立っている。
もちろん、必要なのは抜本策だ。多くの新生児科医や産科医を育てるための政策が求められている。
不足は特定の分野に( 44 )。日本は06年の人口千人当たりの医師数が2.1人で、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均3.1人を大きく下回り、最低水準にある。
この現状を克服するには、
民主党が政権公約に掲げた「医師養成数の5割増」を軸に、医師の総数を増やす長期計画づくりを急がねばならない。
大学の医学部の定員を増やす。医師となるにふさわしい人材に広くチャンスを与えるような教育制度改革や、奨学制度の充実も求めたい。
医師の偏在をなくす努力も必要だ。医師の負担を軽減( 45 )、看護師や機器を扱う技師も充実したい。
「いのちを守りたい」を掲げた民主党政権はもちろん、超党派で取り組むべき重要課題である。
(「朝日新聞」2010年4月19日付)