⽇本語では「する」という⾔い⽅よりも「なる」という⾔い⽅のほうが好んで使われる。「する」を使うと①話し⼿の意思があることが伝わり、「なる」を使うと話し⼿の意思ではなく⾃然に起きた、そのような状態にあるということが伝わる。
例えば、禁煙のレストランで⼀⼈の客がタバコを吸っている場⾯で、店側は何と⾔ってタバコをやめてもらうだろうか。このレストランを禁煙と決めたのは店の⼈だ。店の⼈の意思でそのレストランを禁煙にしたはずだ。それならば、「ここは禁煙にしております。」と⾔うのが⾃然に思える。しかし、この「〜にする」は②上に書いたとおり、話し⼿の意思が強く伝わる。この場⾯では、相⼿の「たばこを吸う」という⾏動に対⽴する(注1)意思が強く表現されてしまう。その結果、相⼿を怒らせてしまうかもしれない。⼀⽅、「ここは禁煙になっております。」と⾔うと⾃分の意思とは関係なく、単にレストランの決まりを伝えているという形になり、相⼿と対⽴するような形にはならずに⾔いたいことを伝えられる。
このように⽇本⼈は「なる」をうまく使うことで⼈と対⽴しないようにしているのだ。「する」と「なる」は⽂字で⾒るとたった⼀⽂字の⼩さい違いだが、コミュニケーションの上にでは⼤きな違いなのである。
(注1)対⽴する︓2つのものが反対の⽴場に⽴つ。
⽇本⼈にとって桜は特別な⽊である。春になると桜の花の美しさを求めて、家族や仲間が集まって花⾒を楽しむ。桜で有名な場所は各地にあるが、近所の公園や並⽊道(注1)などにも、桜が楽しめるところは数多くある。
桜はとても⼿がかかる⽊である。花は春の1週間ほどはきれいだが、すぐに散り始め、⼩さな花びらがあちこちに⾶んで⾏き、何⽇も掃除しなければならない。葉は秋に⾚や⻩⾊に変わり、再び私たちの⽬を楽しませてくれるが、すぐに落ちて、⼤量の落ち葉を⽚づけるのが⼤変である。しかし、美しい花や紅葉を⾒せてくれるのだから、①掃除ぐらいで⽂句を⾔ってはいけないだろう。桜に②最も⼿がかかるのは、⻑⽣きさせることである。放っておく(注2)と60〜70年ぐらいで⽊が弱り、枯れてしまうと⾔われている。このため、不必要な枝を切ったり、重くて下がってきた枝を⽀えたり、⾊々と世話をする必要があるのだ。このような作業はとても⾯倒だが、桜を⼤切に思う⼈々により全国で⾏われていて、樹齢100年を超える桜も珍しくない。
古くからある桜を⼤事にするだけでなく、新しい桜を植えることもさかんだ。新しい公園や学校ができると必ず若い桜の⽊が植えられる。⼿がかかると分かっていても、⽇本⼈は⾝近なところに桜の⽊があってほしいと思うのだ。⽇本⼈にとってこれほど特別な⽊は桜の他にはないだろう。
(注1)並⽊道︓何⼗メートルも、両側に⽊が植えてある道
(注2)放っておく︓世話などを何もしない
今、⼀つの家で家族以外の⼈と⼀緒に暮らす、シェアハウスという住宅が増えている。シェアハウスとは、アパートのように⾃分⽤のかぎ付きの部屋はあるが、台所や居間、シャワー、トイレなどは共同で使う住宅である。
家賃は周りのアパートなどと同じ程度だが、共同部分があるため、部屋に冷蔵庫などを置く必要がなく、⾃分の部屋を広く使える。また、⼀⼈暮らしの⾃由を楽しめるだけでなく、共同部分でほかの住⼈と交流ができるため、寂しさや不安も少なくなる。仕事も国も年齢も違う⼈と⼀緒に過ごせば、⾯⽩い発⾒があるかもしれない。
ただし、快適に⽣活するためにはいくつか注意点がある。必ず⾒学をして、そこに住んでいる⼈と⾃分の⽣活のしかたがあうかどうかを確認することだ。年齢や職業もチェックしたほうがいい。共同部分の使い⽅についても、どのような決まりになっているかを知っておきたい。掃除、⾳などで問題が起きることもあるからだ。また、ベッドなどの家具や洗濯機などの電気製品が付いているかどうかも確認した⽅がいい。ついている場合は、⼊るときにこれまで持っていたものを⼿放さなければならず、出た後は、買う必要がある。⼊る前に、以上の点に注意しておけば失敗が少ないだろう。
⽇本の鉄道は時間が正確なことで有名だ。それには鉄道に関係する⼈々の努⼒が⽋かせない(注1)。列⾞の掃除もその⼀つである。
新幹線の場合を⾒てみよう。16両の新幹線ならゴミ出しやトイレの掃除なども⼊れて55⼈が担当する。1両(63〜100席)は普通、⼆⼈で担当する。時間は10〜12分。遅れると乗客に迷惑をかけ、出発時刻も遅らせてしまう。
担当者は⾞内に⼊ると、まず空いたペットボトル(注2)や⽸を集め、座席の背もたれ(注3)にかかっている⽩い布を取り外す。次に座席を元の位置に戻し、新しい布をつける。ほうきで座席をきれいにし、ひじかけ(注4)をふく。鏡を使って、たなに忘れ物がないか確認する。最後に床を掃く。これを時間内で終わらせなければならない。
この仕事を12年前にパート(注5)仕事で始めた安喰さんは、それまで主婦をしていたが、家の掃除とは全く違うことに気づかされた。そのため、休⽇に⾃宅の居間に椅⼦を並べて、時間を計って練習したそうだ。2年たつと、時計を⾒なくても残り時間がわかるようになった。その後、仕事が認められて社員となり、8年⽬は作業⻑に、今は550⼈を指導する管理職になった。
以前、台⾵のため新幹線が遅れて掃除時間が4分しかないことがあった。最低限必要な作業をどうするか、不安な気持ちをおさえ、担当者を集めて細かく指⽰した。決められた時間に出発したときの①うれしさは忘れられなかったという。
このように様々な⼈々のおかげで②鉄道は正確な時間に⾛れるのである。(朝⽇新聞⼣刊2011年9⽉5⽇より)
(注1)⽋かせない︓必要である。なくてはならない。
(注2)ペットボトル︓飲み物を⼊れるプラスチックの⼊れ物
(注3)背もたれ︓ 座席の背中を⽀える部分(イラスト参照)
(注4)ひじかけ︓座席の腕を休めることができる部分(イラスト参照)
(注5)パート︓普通よりも短い時間だけ働くこと
最近、⼤学だけではなく⼩中学校でも、成績が悪く授業についてはいけない⽣徒は上の学年に進ませずに、もう⼀度同じ学年に勉強させようという意⾒が出ている。これは本当に⼦どもにとって良いことなのだろうか。
まず、①⼀つ⽬の問題は、クラスの中のつながりが⾮常に強い⼩中学校で、⾃分ひとりが進級できないと、⼤変なショックを受ける(注1)ということだ。そのうえ、下の学年の⽣徒が⾃分より勉強ができるようになった来たら、やる気も地震もなくしてしまうかもしれない。
もう⼀つは、同じ内容を繰り返し勉強しても、成績が必ずしも上がらないと思われることだ。成績が悪いのは、勉強をする習慣がない、勉強のやり⽅が分からない、基礎的なことが分かっていないなどが原因であることが多い。これを何とかしなければ、②結果は変わらないだろう。
もちろん今の学年の内容が分からないままで上の学年に上がってしまったら、今より難しい内容についていくことはできない。だが、その⽣徒に対して、ボランティア(注2)が特別に指導をしたりすれば、③この問題は改善すると考えられる。
例えば、授業が終わった後に、教師になりたい⼤学⽣や、退職した(注3)教師が⼤学に来て、その⽣徒の問題を知り、その⼦供に合った指導をするである。このようなことをしていけば、やる気をなくすこともなく、上の学年にいても勉強についていくことができるのではないだろうか。
(注1)ショックを受ける︓ある原因でとても不安になる
(注2)ボランティア︓ お⾦のためではなく、社会に役⽴つことを進んでいる⼈
(注3)退職する︓仕事を辞める