今は中学校の体育の授業でダンスをする時代で、公園や駅前広場では若者のダンスグループが練習しているのをよく見かける。私はその前を通るたびに思い出すことがある。
私の母は小学生の頃からダンスを習っていて、将来はミュージカルの女優になりたいと考えていたそうだ。しかし、家庭の収入が安定していなかったため、一人娘だった母は夢をあきらめ、高校を卒業したあと就職したと聞いている。のちに父と結婚して祖父母を引き取り、生活も安定したが、専業(注1)主婦の母は何か物足りなく感じていたそうだ。
今なら大人のダンス教室がたくさんあって、①母のような人が活躍する場もあるが、その頃は子供の教室しかなかったのだ。そこで母は、私にダンスをさせようと考えた。
しかし私は、母と違って全くダンスの才能がなかったのだ。おまけに、子供なのに子供が嫌いで、知らない子供といっしょにダンスを練習するなど絶対に嫌だった。私の気持ちが固かったので、母はまた②あきらめることになった。
もしあのとき、母が無理に私を教室に行かせていたら、どうなっていただろう。少しはダンスができるようになっていたのだろうか。2回もあきらめさせて、母に悪いことをしたなと、今では思っている。
(注)専業:それだけをしていること。