夜、ぐるぐると歩くのが好きだ。春夏秋冬、温度だけでなく夜はすべて違う。私の大嫌いな夏も、一つだけ長所を持っている。夏の夜(まいくらでも歩いていられる。
友達の誕生日、友達に会うのに、ケーキを持って待ち合わせの場所ド行った。どこかで食べるつもりだったが、夏の夜があんまりにも気持ちよいので、会ってがら私たちはただ歩いた。明かりがまぶしい商店街や、しんと
(注1)眠った住宅街を歩いた。
私はケーキを持っていたことを思い出し、そのことを友達に告げると、彼はその場でケーキを受け取り、歩きながら食べようと言った。車がびゅんびゅん通る夜の環七
(注2)沿いを歩きながら、私たちはお祝いのケーキを頰張った。行儀の悪い食べ方をしたおかげで'、ケーキはとてもおいしかった。涼しい風が吹いて、ささやかだけど星が灯って、丸い月がほりついていて、夜の道はお祝いにはもってこい
(注3)だと思った。
(角田光代『愛してるなんていうわけ穿いだろ』 中央公論新社より)
(注1)しんと:全く音がしないで、とても静かな様子。
(注2)環七:環状七号線(東京都の道路)。
(注3)もってこい:ちょうど合っている。