①それは突然始まった。
 麻疹みたいに突然だった。頭痛みたいに激しくなったり軽くなったりした。そして慢性の糖尿病みたいにずうっと続いた。
 そんなふうにして、17歳の私は人嫌いになってしまったのだった。
 原因はとてもあやふやで、あるようなないような、②それすらも分からなかった。しかしそのときは原因なんてどうでもよかった。
 それまで毎日毎日楽しかった日々が、急に灰色眼鏡の尚こう側になってしまい、大好きだった友達たちが突然嫌な人間に見えてきて、私はただ呆然と困っていた。今までと同じように、面白かったTVの話や食べ物の話や好きなスターの話がたまらなくつまらない。みんないったい何を考えているのだろう。それから、友達の根本がまるで見えなくなって、みんなが嫌なことを思っているように感じた。私は少しおとなしくなった。それまで馬鹿みたいにはしゃいでいたが、急に無口になった。

(角田光代『愛してるなんていうわけないだろ』中央公論新社より)


(注1)麻疹:ウイルスによる病気の一つで、高熱が出て、皮ふに赤い点がたくさんできる。
(注2)慢性:よくない状態が長く続くこと。
(注3)糖尿病:血液中の「血糖」が異常に多くなる慢性の病気。
(注4)呆然と:力が抜けてしまい、ぼんやりと。
(注5)はしゃいで:調子にのって陽気に騒いで。

1。 問9 ②それは何を指しているか。