(1)
われわれは、自分のことはよくわからないが、ほかの人のことはよくわかる。だから、部下のことはよくわかる。しかし、①本当にそうだろうか。
確かに、部下の短所についてはよくわかっている。しかし、長所についてはあまりわかっていないといったほうがよさそうだ。それが証拠に、部下の長所を聞かれても、あまりあげることができないし、しかも具体的に言えない上司が多いのである。(略)
われわれは、仕事を通して、部下の言動を見ている。そして、その部下のさまざまな言動を無意識的に観察して、部下の人柄や能力などを判断しているのだ。その判断というのが極めて(注1)抽象的なものである。具体的な事柄を明確にしたうえで、導かれた(注2)ものではなく、漠然(注3)と記憶されたものから導きだされた感覚的なものなのだ。だから、部下の長所をあげろと言われたときに、あまりあげられないし、②あげられたとしても具体的ではないということになるのである。
(注1)極めて:非常に
(注2)導く:答えを出す
(注3)漠然:はっきりしない様子