大学の授業でコミュニケーションに関するゲームをやると、いろいろなことがわかって面白い。一つ紹介しよう。
まず、一人の人に下のような図形を見せる。その人は、この図形がどんな形か、身振りや板書などを使わずに、言葉だけでほかの人たちに説明する。伝えられた人たちは、その情報を頼りに各自、図形を描く。所要時間3分。見本とほぼ同じものが描ければオーケイというわけだが、このゲームの成功率はだいたい10%ぐらいで、①非常に低い。それほど複雑な図形でもないのに、なぜこんなにうまくいかないのか。
ほとんどの場合、説明者は、最初にこう言ってしまう。
「まず、丸を描いてください」
これを聞いた人たちは、めいめいいろいろな丸を描く。大きな丸を紙一杯に描く人もいれば、左上のほうに寄せて小さく描く人もいる。心理テストにでも使ったらおもしろそうだ。描いている人たちは皆、自信がなさそうに、少し首をかしげながらやっている。 それもそのはず。いきなり、ただ「丸を描け」と言われても、全体像が見えていないのだから、聞き手は戸惑うばかりだ。話し手のプレゼンテーション・マインドが欠けてい て、聞き手本位の話し方ができていないといえる。
それを、こんなふうに言ったらどうだろうか。
「まず、この用紙は縦に使ってください。これから皆さんに 5つの図形を描いてもらいます。図形は上から、丸、正方形、正方形、丸、正方形の順序です。それぞれがすぐ そばの図形と接しています。重なり合っている図形はありません。丸の大きさは直径 5センチくらいです。正方形も同じ大きさです。では、一番上の丸から描いていきましょ う。」
いきなり丸を描けという代わりに、全体的なこと、用紙の使い方とかトータルな図形 の数を先に説明する。そう、わかりやすく話すための第 1 のポイントは全体から話すことである。
また、このゲームの場合、「直径 5 センチくらい」と具体的に説明することで、グッと正解に近づくことができる。2 番目のポイントは「具体的に話すこと」である。この第 2のポイント、何事も具体的に話す習慣をつけると、コミュニケーション上手な人に一歩 近づける。
人は皆、おもに言葉という記号を用いて伝達し合う。この本の読者ならば、日本語と いう共通の記号を理解しているから、本が読めるし、話も通じるのだ。「犬」と聞けば、 あるいは読めば、日本語の約束を知っている人なら誰でも「ワンワン鳴く動物」を思い浮かべる。ここまでは皆いっしょだ。
しかし、 【A】 そこで、こんな犬だということを正確に伝えるために、私たちはより具体的に説明を加えるであろう。
自分の意図をできるだけブレの少ない形で伝えたいと思うなら、やはり具体的に話すことが重要になる。