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先日友人から面白い話を聞いた。猫にしつけられた、というのである。飼い主が猫をしつける(注1)のでなく、飼い主が猫にしつけられたのである。話はこうだ。
寒くなると、猫というものは一日中、暖かいストーブの前やホットカーペットの上に座っているものらしい。ある日友人は猫のご飯を作って、「ごはんよ」と呼んだ。しかし、なかなか来ない。こんなとき飼い主というものは、つい猫のところまでご飯を持っていってしまうのだそうだ。猫はホットカーペットの上にすまして座っている。飼い主は①その瞬間なにかが変わることに気づかない。
さて、翌日、「ごはんよ」と呼ぶが、猫は定位置からじっと飼い主を見るばかりだ。まだ飼い主は事態に気づかぬまま、ご飯を持っていく。ここで事は決定的になるのだが、まだ飼い主は気づかない。
気づくのは数日後。台所までご飯の催促をしにきた猫が、飼い主が用意を始めたと見るや、②サッと定位置まで戻り、ちょこんと座って待っている姿をみたときだ。つまり、冷たい台所で食べるのがいやで、なにがなんでも③出前をさせるつもりなのだ。以後、飼い主は出前(注2)を続けることになったのである。
(注1) しつける:生活に必要なことが出来るように教えこむ
(注2) 出前:料理などを注文した人の家まで運ぶこと