最近の新聞記事によると、今の日本は労働力が足りないそうである。あちこちで人手(注1)が足りないといって、アジアのほかの国に労働力を求めるようになった。
しかし、①ふしぎなことに、同じ新聞には、日本の失業率が5%になったとか、仕事や住むところがなくて生活に困っている人がいるといった記事もある。外国人労働者に来てもらわなければならないほど労働力が不足しているというのに、どうしてそういうところにこれらの日本人が就職しないのか。私にはちょっと納得がいかない。
特におかしいと思うのが若い失業者たちである。というのも、彼らの多くが「自分らしい仕事」が見つからないから失業中、という決まったせりふを言うからだ。仕事はたくさんある。でも、どれを見ても「自分らしく」なさそうで魅力がないからやめた。だから、何もせずただ日々を過ごしているというわけだ。
実際、このあいだもテレビを見ていたら「六本木あたりの外資系(注2)の仕事」につくのが「自分らしい」のだと答える青年がいたのにびっくりした。冗談じゃない。たしかに東京・六本木の超高層ビルのおしゃれなオフィスは、かっこいい舞台に見える。しかし、そんな職場や仕事につけないから「自分らしく」ない、だから何もしないでぼんやりしている、という発想がどこから出てくるのだろう。
そもそも、私にはこの「自分らしい」ということの意味がよくわからない。どうやら、テレビやマンガを通じて出来上がった、理想の職業、収入、ライフスタイルなどのイメージが「自分らしい」ということらしい。それ以外の生き方は「自分らしく」ないのである。大都会のエリートになることが「自分らしい」、地味な職業につくのは「自分らしく」ない、というのは非現実的である。はっきりいって、わがままである。
もしも「自分らしさ」というものがあるなら、それは与えられた仕事をまじめにして、自分の生活を作ったときに自然と生まれてくるものなのである。「六本木の外資系」などというイメージより、現実の世界で自立(注3)すること。そこで生活の意味を見つけたときに、はじめて本当の「自分らしさ」が見えてくるのではないだろうか。
(注1) 人手:仕事をする人
(注2) 外資系:外国資本の会社
(注3) 自立:他人の助けや力を借りないで、自分の力で生活すること。